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【戸畑区】市有形文化財「旧安川邸」常時公開に 5月からは喫茶もスタート

(アイキャッチ画像:喫茶イメージ)

北九州市指定有形文化財に指定されている「旧安川邸」(戸畑区一枝)。これまで限定的に公開されていましたが、2022年4月1日から常時公開が開始しました。

また、今回の一般公開開始に伴い、5月中旬からは喫茶事業もスタートします。

旧安川邸の入り口

「旧安川邸」とは

旧安川邸の敷地面積は、約13,000平方メートル。明治期に石炭関連企業を次々と創業し、工業都市北九州市の基礎を築いた企業家である安川敬一郎により、旧戸畑市中原(現在の戸畑区一枝・仙水町)の開発と並行して1912(明治45)年に建設。以後三代にわたり、安川家当主と一族が居住した住宅です。

旧安川邸には、「筑豊御三家」と呼ばれた安川敬一郎、敬一郎の三男で安川電機初代社長の安川清三郎、孫で安川電機三代目社長の安川寛までが住みました。そのため、表札には「安川寛」の名前を見ることができます。

明治期、大正末期、昭和初期の各時代に建築された建物群が一体的に残され、北部九州における高級住宅史、日本の近代建築史上極めて重要な住宅建築であることなどから、2018(平成30)年8月1日、北九州市指定有形文化財に指定されました。

写真提供/北九州市

現在の安川邸は、1912(明治45)年に若松から移築された大座敷棟1棟(延床面積約300平方メートル)、1912(明治45)年竣工の南北の蔵各1棟(延床面積約200平方メートル)、1927(昭和2)年竣工の洋館棟1棟(延床面積約330平方メートル)、1938(昭和13)年竣工の洋風本館棟(延床面積約210平方メートル)などが残されています。

北九州市では、2016(平成28)年から株式会社安川電機と共同で「旧安川邸利活用事業」を実施。建築物などを保全しながら、敷地は夜宮公園の一部とし、市民の憩いの場や市内外の観光客が訪れる新たな賑わい・観光拠点として活用しています。

昭和13年竣工「洋風本館棟」

旧安川邸の正門を入って、正面にある洋風の「本館棟」(昭和13年竣工)へ。樹齢100年近いといわれる見事なカイズカイブキが出迎えてくれます。

本館棟前庭のカイズカイブキ

客人との面会のために建築された「応接室」は、1938(昭和13)年に洋館として建築された本館の応接室にふさわしく、暖炉やフローリング、雪の結晶がデザインされた摺りガラスの窓など、洋風の装飾が施されています。

応接室

その一方で、網代に組んだ天井や杉戸を意識したドアなど、当時最先端だった和洋折衷表現の姿を見ることができます。

雪の結晶がデザインされた摺りガラス

玄関を入ってすぐの場所、応接室の向かいにある「書生室」は、旧安川邸に寄宿した書生たちが過ごした部屋です。

書生室

「玄関」「書斎」など邸宅内のどこから呼ばれているのかが分かる書生の呼び出し用表示板や電話などが残されており、当時の書生たちの生活の様子をうかがい知ることができます。

呼び出し用表示板

「茶室」は奥につながる「大座敷」と一対をなす接客空間として本館棟の改築に合わせ移転、改築されました。

茶室

茶室内の上座には、造り付けの仏壇が配置されており、幕末から明治期に建てられた富裕層の邸宅によく見られる特徴です。

そのほか、本館棟では、旧安川邸と安川一族を紹介する映像や1975(昭和50)年頃の旧安川邸の模型、昭和初期のトイレなども見ることができます。

旧安川邸で最も古い建物「大座敷棟」 孫文の書も展示

本館棟の奥に続くのは、明治45(1912)年に若松から戸畑に移築された「大座敷棟」。旧安川邸で最も古い建物です。

大座敷棟

この大座敷棟の中心となる部屋が、官営八幡製鐵所を誘致するための最初の会談が開かれた「大座敷」。床の間などがある15畳の「大座敷」と10畳の「次の間」の二間続きとなっています。

写真提供/北九州市

両間ともふすまや畳を取り外すと、能や狂言などの舞台に転用できる造りとなっています。大正2(1913)年には中国の革命家・孫文が訪れており、大座敷を背景に安川一族と並んで写った記念写真も残っています。また、孫文が揮毫し、安川敬一郎に贈呈した「世界平和」の扁額(レプリカ)も見ることができます。

失われてしまった建物の間取りも表現「鐵の記憶広場」

本館棟と大座敷棟を見学した後は靴を履き、外へ出ます。本館棟を出て右手に進むと、見えてくるのが「鐵の記憶広場」です。

以前は時折園遊会が催されていたという南側芝生広場を整備し、生まれ変わった「鐵の記憶広場」には、激動の近代日本と安川敬一郎の思想の象徴である「鐵」をイメージし、鉄や鉄に関連する素材を配置。かつてこの場所にあったけれど現在は失われてしまった第二次本邸の建物の間取りを表現しているとのことです。

このスペースには、透明なベンチなども設置されており、芝生広場を眺めながら休憩するのはもちろん、フォトスポットとしても活用できそうです。

「鐵の記憶広場」を紹介するプレートには、昭和51(1976)年に大半が解体された第二次本邸の写真や、1900(明治33)年に伊藤博文らが建設中の製鐵所を視察に来た際の集合写真なども紹介されています。

敷地奥に並ぶ2つの蔵 「南蔵」は西日本で最古の鉄筋コンクリート造りの建築物

敷地奥に進んでいくと、並んだ2つの蔵「南蔵」「北蔵」が見えてきます。

明治45(1912)年に建てられた「南蔵」(写真左)は、西日本で最古、日本全国でも2番目に古い鉄筋コンクリート造りの建築物です。

「北蔵」(同右)も南蔵と同時期に建てられていますが、南蔵が鉄筋コンクリート造りであるのに対し、北蔵は煉瓦造りで、外壁に石を張って石造りに見せています。構造こそ異なりますが、規模や外観は同じようになっており、『双子蔵』ともいえる一対の建物になっています。

蔵の中には、明治専門学校(現在の九州工業大学)初代総裁を務めた山川健次郎の書簡など、貴重な資料も展示されています。

大座敷前に広がる庭園 滝や水路、透明な四阿など見どころ満載

蔵から大座敷前の庭園へと向かう途中には、ガラスでできた透明な四阿(あずまや)があります。図面には謎の四角形が描かれていたものの、何があったのかは不明ということで、元々の景観を損なわないよう、風景に馴染む透明な四阿を建てたとのことです。

大座敷前の庭園は、広々とした芝生に加え、滝や水路もあり、流れる水の音が心地よく聞こえていきます。

写真提供/北九州市

縁側前に設置された沓脱ぎ石や、庭園に置かれた石灯籠など、巨大な石も見ることができ、ゆっくり散策を楽しみたくなります。

ロケでも使用された趣ある「洋館棟」

大正デザインが特徴的な「洋館棟」は昭和2年竣工。安川敬一郎が家督を譲った後、亡くなるまで住んだ場所です。テレビドラマの撮影などでも使用されたことがあるという趣ある建物ですが、耐震改修が行われていないため、現在は立ち入り禁止で外からの見学となります。

また、庭の方から建物の裏手を見ると、完全な洋風建築ではなく、和風の座敷があることも分かります。珍しい建物なので、訪れた際は表からだけでなく、裏からも見ることをお勧めします。

『煎茶』を中心に提供する「喫茶」にも注目 営業は5月中旬から

5月中旬からスタートする喫茶事業には、小倉北区中島で古民家カフェ「茶論 Salon du JAPON MAEDA」を展開する老舗の日本茶専門店「前田園本店」が協力。旧安川邸を建設した安川敬一郎が好んだといわれる煎茶を中心に提供するとのことです。

取材日は特別に営業していましたが、この日は「お煎茶セット」「本玉露セット」「ほうじ茶セット」「抹茶セット」があり、それぞれ季節の生菓子から好みのお菓子を1つ選ぶことができました。

本格的なオープン日までには、メニューはまだ増える予定とのことで、正式なオープン日・メニューは決まり次第、「旧安川邸」ホームページで発表されるとのことです。

■所在地/北九州市戸畑区一枝1-4-23(夜宮公園の一部)
■開館時間/9:00~17:00
■休業日/火曜(火曜が祝日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
■入場料/一般260円、小中学生130円
■駐車場/20分以内は無料、30分ごとに100円、当日最大600円(24:00まで)
■アクセス/西鉄バス「明治学園前」下車、徒歩約5分

※2022年4月8日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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