「門司港が誰かの故郷になる可能性だってある」/菊池勇太(起業家)
北九州市門司港に店を構える印鑑屋の六男として生まれた、菊池勇太さん。
現在は門司港を拠点に宿泊業やアイスクリーム屋、コミュニティスペースの運営を手がけている。地元でさまざまな事業に挑戦する彼は今、その活動の幅を広げ映画の制作に取り組む。門司港を舞台とし、この地の魅力を外に発信することに力を注いでいる。
多岐にわたるその活動の原動力がどこにあるのかを聞いてみた。
映画を撮ろうと決めて1年半で上映会
ーさまざまな事業を展開している菊池さんですが、いま門司港で映画を撮ろうと思ったきっかけは?
「この映画の主人公はぼくの友人がモデルになっているんです。その友人は東京で働いていて、その暮らしの中で精神的に満たされたことがなく、いつも心の真ん中にぽっかり穴が空いているような状態が続いている。そんなことをぼくに打ち明けて来たことがありました」
「実はそういった虚無感みたいなものを胸に抱えている同世代が、周りにまだたくさんいるのではないか。自分たちに何かできることはないだろうか。と、東京で俳優をやっている幼なじみと飲みながら話をしていた時にぼくが、『よし、映画を撮ろう』と言い出したんです」
ー制作・完成までにはどれくらいかかったのでしょうか。
「去年の4月頃に友人と話をしてからなので、思い立ってから約1年半で映画を完成させました。自分でもこのスピード感にはびっくりしています」
心のよりどころみたいな所を
ー映画にはどのようなメッセージを込めましたか。
「ぼくらには故郷と言える場所があります。どこに行ったってここに戻ってくればほっとする、心が安らげる場所があります。けれども東京みたいな大都会で生まれて、そこで育ってきた人たちには、ぼくらみたいに大きく手を広げて深呼吸できる場所ってなかなか持てないのかなと。帰ってこれる場所、心のよりどころみたいな所って必要だと思うんです」
ー久しぶりに会って、おかえりなさい、いってらっしゃいって言い合える場所や人との関係性って重要ですよね。普段は気にしないで生きていけるとは思いますが、それらがあるとないとでは全く違った人生になりそうです。
「門司港は港まちということもあり、さまざまな文化や人を受け入れてくれるような気質があります。地元に住んでいる人であろうと、外からきた人であろうと等しくもてなしてくれるんです。いや、もてなすというよりも包み込んでくれるというニュアンスの方が近いかもしれません」
「映画にも出てきますが、食堂のおばちゃんであったり、その店の常連さん、この街をよく知る人たちっておせっかいさんが多いんです。外から門司港に来てくれた人たちに対しても、とてもよくしてくれる。その包み込んでくれるようなあたたかさや、はじめは戸惑ってしまうような、けれども心地のいいおせっかいをたくさんの人にあじわってもらいたいんですよね」
ー第二の故郷みたいな響きってそこにあるだけで心のよりどころになります。誰かが待っていてくれることを実感できると日々のくらしも変わってきますね。
「そうですね。そういった心のよりどころって家族や恋人だけではないと思っていて。ここ門司港が誰かの故郷になる可能性だってあるだろうし、食堂のおばちゃんがそういった存在にもなり得る。またここに来たい、あの人に会いたいと思えるような存在に出逢えると、人生が豊かになるとぼくは思っています」
ーどんな人にこの映画を観て欲しいですか?
「やっぱり一番はぼくの友人のように、漠然とした寂しさを抱いている人。この映画を観て、少しでもその寂しさを埋めてあげられたら嬉しいです。地元が門司港という人に限らず、北九州に住んでいる人にもこの門司港の風景を映画を通して観てほしいと思っています。自分で映画を撮っていて再確認したのですが、門司港ってやっぱりすごく綺麗なんですよ。街並みや心地よい潮風、汽笛の音。それら全てが心に染み渡ってくるんです」
映画「門司港ららばい」は全国で上映
菊池さんの話を聞いていると、本当に地元である門司港が好きなんだなと感じる。
それはきっとこの門司港の街やここに住む人々に育てられた、愛されているということを実感しているからなんだと思う。
菊池さんはこの映画をつくることでその人たちへの感謝の気持ちを伝えたり、自分が受け取った愛情を誰かにお裾分けしたり、地域の魅力を循環させることに力を注いでいるように見える。先代の方々が育んだ文化を受け継ぐように、自らも立派な「おせっかい」をやく人になっているのだろう。
映画「門司港ららばい」は約30分の短編映画で8月29、30日で完成披露試写会を終えた。これから全国各地の映画館で上映を開始する予定だ。
菊池さんの言うように、モヤモヤした感情や今まで誤魔化し続けて言葉にしてこなかった思いを表に出せるようなきっかけになる映画だと思う。ぜひ劇場でご覧いただきたい作品だ。
(北九州ノコト・西方俊宏)
◆菊池勇太さんプロフィール
北九州市門司港出身、現在も在住。菊池印象堂の六男坊。門司港ゲストハウス「PORTO」など門司港を中心に事業を行っている。