道真公をたずねて花の兄に逢いに「菅原神社」と『菅公御手洗の池』【北九州市戸畑区】
茶道には「茶杓(ちゃしゃく)」という、お茶を点てるときに抹茶をすくう竹さじに銘を付ける作法があり、それぞれ月ごとに雅な季語があります。
1月は「若水(元旦に汲んだ水)」「松風(炉で沸かす湯の音)」、4月は「花まつり(お釈迦様の命日のお祭り)」など。
そのなかで2月の季語に「花の兄」ということばがあります。
花の兄とは冬を越し、新しい年と春をかき分けるようにどの花よりも早く咲く「梅」の花のことを指します。
(アイキャッチ画像はイメージ)
茶道では「花」というだけでそれは「桜の花」を意味し、「花の弟(おとと)」とは秋深くなって咲く「菊の花」のことをいいます。
まだ寒さ続く中、つかのまの陽気に誘われ「花の兄」を探して戸畑の「菅原神社」を訪れました。
戸畑祇園山笠でにぎわう大山笠宿の神社
道真公が大宰府に流された道中にあたるため、北九州市内にはいくつも「菅原神社」がありますが、こちらは2013(平成25)年、ユネスコ無形文化遺産に指定された国指定無形重要文化財・戸畑祇園大山笠行事の「天籟寺大山笠宿」の菅原神社です。
菅原神社には大宰府から移植された「錦旗」と銘された紅梅もあります。
残念ながら境内の紅梅はまだちらほらの開花。ただ通りを挟んだ「菅原公園」では、斜面に沿って植えられている紅梅も白梅もそろそろ盛りを迎えていました。ちょうどいい散歩道には、梅のいい香りがただよっています。
中には接ぎ木であるのか、紅梅と白梅が同じ木に咲いているものも見られました。
大宰府へ向かう道真公とのゆかりの地
この菅原公園を通って階段を下りていくと菅公ゆかりの「御手洗の池」というものがあり、史蹟となっています。
ひっそりとある小さな池は春に向かう陽の光を受けてちょっとジブリの世界のように幻想的でした。
ここは道真公が天籟寺に一宿を求めて立ち寄られた際に手を洗われた由緒正しい池、ということになっていますが、北九州に伝わっている昔話では少し残念な話になっていて、「寒い日の夕方に疲れはてた旅人が寺に泊めてほしいとお願いしたが『ここは身分の高い方しか泊められない』と寺は断った。どうしてもと言うので一番鳥(朝を告げる鳥)が鳴くまでという約束で泊めた。しかし素性が分からない旅人を追い出したいので寺小僧さんに鳥の鳴きまねをさせて早くに寺から追い出したが、あとからそれが道真公の一行であったと知り、村人が大変気の毒がって菅原神社を建てた」とのこと。
そのむかし、子どもたちは道真公のように字が上手くなりたくて、七夕習字ではここの池の水をもらって願いをこめて墨をすったらしいです。
菅原神社は山の斜面のような場所にありますが水の豊富な場所であるらしく、境内には「天神の水」という井戸があります。井戸の管理が必要なので、いただいて持ち帰る場合には横の浄財箱に寄進をするようになっています。
水がぬるんできたらもうすぐ春も本番ですね。有名な公園へ花見に出かけるのも楽しいですが、近所にある神社やお寺でも花の兄は「東風ふかば 匂い起こせよ」との道真公の言いつけ通りに、どの花より先に咲いて私たちを和ませてくれるように思います。
■所在地/北九州市戸畑区菅原1-10-15
※2023年2月21日現在の情報です
(ライター・いるかいる)