【旦過市場】行列ができる干物屋「海産物のやまいち」

午前11時、旦過市場に入り50メートルほど歩くと、行列ができている店がある。干物屋の“海産物のやまいち”である。店頭には毎日150種類もの商品が並んでおり、開店からまもなくして買い物客が次々と来店する。少しの間、その風景をのぞいて見ると、立ち止まって商品を見ている人の購買率の高さがわかる。

旦過市場で店をやっていくこと、旦過市場で働くということについて、同店で働き出して8年になる店長の吉野さんに話を聞いた。

観光協会勤務・飲食店経営を経て旦過市場内の干物店へ

「常連のお客さんは何を買うかを決めて来店することが多いです。早い時間帯に来ないと人気商品がなくなってしまうからと開店を目指して足を運ぶお客さんが多いので、開店直後は忙しいですね」と吉野さん。

朝から大量の鮭を切る作業を毎日していて、その切り身数は100を超えるそうだ。商品の回転数が多ければ多いほど、鮮度が保たれた状態で食卓に並ぶことに繋がる。つまり、この店では新鮮な商品が常に店頭に並んでいるということなのだ。

「海産物のやまいち」店長の吉野さん

かつては北九州市の観光協会で仕事をしたり、自ら飲食店を開業したりと、さまざまな経験の持ち主の吉野さん。そこから旦過市場の干物店へ転職し、北九州市が誇る観光スポットの最前線に身を置くこととなった。

「観光協会で働いていた時期からずっとお世話になっていた当社先代の社長に声をかけてもらったのがきっかけで働きはじめました。働きはじめて少し驚いたことは、イメージしていた客層と実際とのギャップがあったこと。干物って地味なイメージが強い商品なのでお客さんも年齢層が高くなるのかなと思っていたのですが、若い人もたくさん買いに来るんです。小さなお子さんがいて、離乳食をこだわって手作りする人なんかがよく来店して、いりこ等を購入してくれますね」

買い物にきた客との会話を大切にする吉野さんは、相手がどんなものを探していて何を作ろうと考えているのかを引き出して、その人に必要な情報を商品に乗せて提供している。

自身で飲食店を経営していたということもあり、料理に関してプロからのエッセンスを与えられるのは買い物客としても嬉しいことであると同時に楽しみでもある。こういった体験ができるのは市場ならではの魅力ではないだろうか。

「お客さんも食に対して強いこだわりを持った方が多いので、中途半端なものは置けない。味は料理の過程でつくれるけれども、食材そのものの豊かな香りは後から付け加えることはできない。だからこそ、こちらもいいモノを揃えようと仕入れには力が入ります。買い物にきてくれる人たちの食卓が少しでも華やかになるためのお手伝いを続けたいですね」と、今後も変わらぬ価値を届けていきたいと語ってくれた。

何気ない風景や繋がりが文化になる

吉野さんの話を聞いていてる最中に小学生と思しき小さな女の子がこちらにやってきて、何かを訴えかけるかのように吉野さんの顔をじっと見ている。手には個包装された飴を持っていて吉野さんにそれを差し出して去っていく。向かい側の店の子どもらしく、吉野さんの店だけでなく、周りの店舗にもよく遊びに行っているそうだ。

市場では当たり前の風景だというが、それらを知らない者からすると新鮮なことに感じる。そういった昔ながらの風景とも新鮮だとも言える風景は、この旦過市場の風貌だからこそ感じることができるのかもしれない。

2021年である今年から徐々に始まる旦過市場の再開発がどのように進むのかの全体像はまだ公表されてはいないが、こういった文化も継承して新たな姿になることを願う市民もいるのではないだろうか。

店名 海産物のやまいち
住所 北九州市小倉北区魚町4-4-1
営業時間 9:00 ~ 17:00
店休日 日曜、祝日
電話番号 TEL093-521-7399

(北九州ノコト・西方俊宏)

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