
北九州の酒のルーツを巡る! 人と地域を繋ぐ熱き酒店「田村本店」に行ってみた【北九州市門司区】
(アイキャッチ画像:「田村本店」の4社長代目田村洋文さん)
北九州市門司区の「猿喰(さるはみ)」。ここは、江戸時代に庄屋が私財を投じて新田開発を行い、村民を飢餓から救った歴史をもつ土地だといいます。
現在、庄屋の子孫を含む門司を愛する有志6人が「さるはみブランド委員会」を立ち上げています。
その委員会事務局長を務める田村酒店4代目社長の田村洋文さんは、門司を活性化しようと地元の猿喰新田の米を使った商品開発に挑戦。2011年には先代からの付き合いのある「若竹屋酒造場」(福岡県久留米市)で甘酒「門司猿喰あまざけ」を開発しました。
猿喰新田に現存する「汐抜き穴」は、北九州市指定文化財。そこに社会科見学に訪れた小学生たちの「猿喰のお米を食べてみたい」という声が甘酒作りのきっかけだったそうです。
そして、「門司猿喰あまざけ」は、2018年長野県甘酒鑑評会で名誉審査長賞を受賞し、全国に「猿喰」の名を馳せました。
センスあふれる空間と温かなもてなし
筆者はある週末の午後、たまたま門司をドライブ中に「田村本店」の看板を見つけ、導かれるようにお店を訪ねてみました。
「田村本店」は1922年(大正11年)創業と103年を迎えた老舗の酒店。モデルルームのようなセンスのよい店内は、天井が高く開放感があり、明るい穏やかな日差しが降り注いでいます。
入口を入ると杉の木の香りがします。日本酒を仕込む樽は杉の木を使用されてるそうです。
そして、カウンターにはターンテーブルがあり、この日はjazzの名曲「Bill Evans Trio:Waltz for Ⅾebby」が流れていました。
目に映ったどのお酒もキラキラ輝いているように見え、自然と心地よくなります。また、店員は皆とても柔らかい笑顔でニーズをゆっくりとよく聞き、ベストなチョイスをしてくれました。
また、品揃えを見ると、北九州のお酒を多く取り扱っているお店だという印象を受けました。
「田村本店」は普通の酒店じゃなかった?
今回、再訪して「田村本店」の4代目社長・田村洋文さんに話を聞いてみました。
同店の初代は元々農家でしたが、当時栄えた門司の労働者のために、“酒や食事を提供できる場を作りたい”と門司に店を構えたそうです。
そして2代目は、国鉄勤務の後に酒屋を継ぎ、福岡県産酒の一銘柄の拡売に注力。さらに、3代目は、試行錯誤を経て全国地酒の販売に取り組み、福岡県産酒の振興にも尽力。“福岡の誇れる地酒を作りたい”と「寒北斗」の企画販売に携わったそうです。
同店が情熱を注ぎ、今年で発売40年となる寒北斗酒造(福岡県嘉麻市)の「寒北斗」は、2024年福岡県酒類鑑評会で「福岡県知事賞」や「金賞」など5部門受賞の快挙を成し遂げています。
ほかにも、人の縁により佐賀の名酒「鍋島」(佐賀県・富久千代酒造)の誕生に関わったほか、他には無い”ものづくり”に魅力を感じ、明治時代からの製法にこだわった史上初の皮むき芋焼酎「姶良」(鹿児島県最古の蔵・白金酒造)の企画販売も行ったそうです。
4代目の北九州愛から生まれる酒造りと地域の絆
そして、3代目と共に「寒北斗」「姶良」などで経験と人脈を培った4代目の洋文さんは、「猿喰」で甘酒(若竹屋酒造場・福岡県久留米市)と日本酒(溝上酒造・福岡県北九州市)を開発。
その後、7年間あたためた企画“門司の芋で芋焼酎を作る”を実現。原料農家・製造所・販売店などすべて地元で作り上げた芋焼酎「地芋」(無法松酒造・福岡県北九州市)が2014年に誕生しました。
取材時には、洋文さんが地元の子どもたちと一緒に芋堀りを行い、地元の人たちと一緒に作業する動画も視聴させてもらいました。
とことん北九州愛に溢れる洋文さんは、2019年に発足した「響灘ホップの会 」にも参加し、北九州産ホップを使ったビール造りを軸にSDGs活動、まちづくりにも関与。当会は「2023年北九州SDGs未来都市アワード」の大賞を受賞しています。
なお、響灘ホップの取り組みは『地球の歩き方 北九州市』でも紹介されています。
「田村本店」を訪れてみると、美味しそうなお酒に出会うだけでなく、想像をしなかったスケールの話へと広がりました。地元の食材から酒が生まれる過程を知ることができ、時代を超えて人脈と地域を常に想い、地域と共に築いてきた繋がりと絆の奥深さを感じました。