進路選択の転機になったり、受験に向けて勝負の期間になったりと、大学進学を考える高校生や浪人生にとっては、夏休みの過ごし方が重要ポイントの一つになってきます。
大学受験に向け、モチベーションを上げるためには、進路をイメージすることも大切です。そのために、自分がどんな進路を選べばいいのか、どんな大学生活を送るのか、その後はどういった進路に進むのか、参考になるような先輩たちの話を聞きたいと思ってもなかなか具体的な話を聞けるような人が周りにいない…ということもあるのではないでしょうか。
そんな中、勉強が好き過ぎて九州大学に13年通ったという異色の経歴を持つ人が八幡西区折尾にいると聞き、話を聞いてみました。その人物とは、数学・物理・化学の講師で、折尾駅前にある「大学受験のTG」で15年以上にわたり、塾講師を務めている一色弘さんです。
『学ぶ態度』を学べたことは大学院に進学してよかったと思えることの1つ
一色さんは愛媛出身。物理に興味を持ったのは早く、中学生の頃には科学雑誌「Newton（ニュートン）」を購読したり、アインシュタインの相対性理論に関心があったりという『科学少年』だったと言います。物理への興味関心を高校生になってもそのまま持ち続けた一色さんは、やがて九州大学理学部そして大学院へと進み、自身が物理を追求し続ける学徒となりました。
大学生時代は音楽が趣味で、CDを買ったり、ライブに行くためにアルバイトをしたりと、勉学にはあまり熱心に取り組んでいなかったと言う一色さん。しかし、大学3年のときに柏太郎先生の特殊相対性理論の明快な講義に衝撃を受けて、理論物理学を専攻したいと考えるようになります。
そして九州大学大学院の素粒子理論研究室へ進学。大学院理学府基礎粒子系科前期終了後、後期では理論物理学を追求し、博士課程で6年間研究に没頭。結果として13年間を九州大学で過ごしたとのことです。
「長い大学院生活ではうまく研究成果を出すことができませんでしたが、生涯にわたって理解したいと思えるような題材がいくつも見つかりました」と一色さん。「それまでの自分の勉強の仕方は受験をパスしたり単位を取るためのもので、地に足の着いた理解をするものでなかったとはっきり気づけたのも大学院に進学してからでした。『学ぶ態度』を学べたことは大学院に進学してよかったと思えることの1つです」と長い学生生活を振り返ります。
趣味は『勉強』『研究』、仕事は『勉強を教えること』
長い学生生活を過ごした福岡市を拠点にしながらも、週のほとんどは北九州市へと足を運び、受験生たちを教える日々を過ごす一色さん。その一方で、今も暇さえあれば論文を読んだり、勉強を続けています。しかし、専門書は高いということもあり、書籍代で月10万いくこともあるそうです。
「長く物理と関わってきましたが、現在は興味が数学寄りなものになりました。理論物理のさまざまなところに現れるアティヤ＝シンガーの指数定理という定理を理解したくて、関数解析学・代数トポロジーといった数学の分野を勉強をしています。趣味は『勉強』または『研究』で、仕事は『勉強を教えること』です」と言います。
指導歴は20年以上、折尾にある同塾では15年以上にわたり、生徒たちを教えている一色さん。指導した受験生には一色さんと同じ九州大学理学部へと進み、研究者への道を歩んでいる人も複数いるそう。
「特に今まで一番たくさん指導したのは、教室の近くの東筑高校の理系志望の生徒です。また、八幡高校出身で同じ理学部物理学科に進学した生徒を指導したのは、思い出深いですね。自由が丘高校や明治学園高校の生徒もたくさん教えています。福岡県代表で甲子園に出場した九州国際大学付属高校も北九州市の高校なので応援したくなります。これからも工業のテクノロジーの街である北九州市の高校生に1人でも多く物理化学数学いわゆるSTEMの分野に興味を持ってもらえるように努力していきたいです」と話してくれました。
「勉強ってどうやればいい？」という質問に対しては、「『わからない状態』とうまく付き合うこと。『自分がどのくらい理解しているか』に興味をもつこと。すぐに答えを見てパターン暗記にならないように」との答え。「例えそれで大学受験を突破できたとしても、その態度では何も身に着かない。大学受験勉強で『正しい勉強の仕方』を身に着けた人はそれが生涯の財産になります」と話してくれました。そのため、『わからない状態』から『わかる状態』になるまで、粘り強く教えることを常に心掛けているとのことです。
◆取材協力：「大学受験のTG」（北九州市八幡西区折尾3-1-14）
※2022年8月20日現在の情報です
（北九州ノコト編集部）
