【旦過市場】伝統を守りながらも変化し続けるぬか炊き「百年床・宇佐美商店」
九州の玄関口である小倉駅から商店街を南へ歩くこと10分。北九州の台所として地元民や観光客に親しまれる旦過市場があります。すぐ横を流れる神嶽川(かんたけがわ)からの魚の荷揚げ場として大正時代からにぎわい、昭和30年代に建てられた木造店舗が今もなお残っている時代を感じられる市場です。
その一角で小倉の郷土料理「ぬか炊き」を作り、販売しているのが「百年床・宇佐美商店」です。
ぬか炊きとは
日本に古来から伝わる発酵食品であり、ビタミンやミネラル等が豊富で、栄養価も高いとこで知られている「ぬか床(ぬかみそ)」。そこにキュウリや白菜、ニンジンなどの野菜を漬けると「ぬか漬け」の完成です。
一般的にはぬか床といえばこういった使われ方をするのですが、小倉ではぬか床を調味料として使い、青魚のサバやイワシをぬか床で長時間炊いて食べるのです。これが小倉の伝統料理「ぬか炊き」です。ぬか床で長時間炊くことで保存期間がのびるのはもちろん、青魚特有の臭みもぬけて、ぬか床のうま味が魚にしっかり染み込みます。
この食文化の歴史は長く、江戸時代の初めに小倉藩主・小笠原忠政公が前任の信濃国から保存食用としてぬか床を持ち込んだことで、ぬか漬け、ぬか炊きが小倉に広まったと言われています。
実家の店を継ぐためにIターン
「百年床・宇佐美商店」では、店名の通り100年以上、代々ぬか床を引き継ぎ、その味を守ってきました。
ぬか床はただ寝かせておけばいいというものではなく、きちんと手入れをしてあげないといけません。手を抜くとカビがはえたり、酸っぱくなったりしてしまいます。毎日毎日手を加えて育てていく必要があり、伝統の味を守るということは容易ではありません。
このぬか炊き店を継ぐために5年前に東京から北九州に移住してきたのが、現店主の宇佐美雄介さん。
「百年床・宇佐美商店」は雄介さんの祖父がはじめた店で、当初は今のようなぬか炊き専門店ではなく、味噌や醤油などを販売する小売店だったそう。雄介さんの祖母にあたる信(のぶ)さんが嫁入り道具として持ってきたぬか床を店頭に置いたところ評判となり、ぬか漬けを販売を開始。
当時はぬか炊きは一般的に家庭料理としての認識が強く、店で商品として取り扱っているところはほとんどなかったと言います。次第に同様の店も増え、文化が育ち、前店主で雄介さんの叔母にあたる久子さんの手でぬか炊き専門店として確立させて今に至ります。
「子どもの頃からこの店に遊びに来ていて、後継がいなければ誰かに売却するか、廃業するかという話になっていたので、それだったら自分がこの店を守っていこうと思い、北九州に来ました」と話す雄介さん。それまでは東京でIT企業に勤めていましたが、父親から店の後継について相談を受け、勤続10年という節目の年に退職。2018年から家業を継ぎ、店主として店に立ち続けています。
ぬか炊きをブランディングする
昨年は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、売上が減少してしまったという同店。厳しい状況下において、これからどのように店を切り盛りしていくのか、雄介さんに話を聞いてみました。
「自分の店の宣伝というより、“ぬか炊き”自体が人目を引くことやメディアに取り上げてもらえる工夫をすることを常に考えています」と語るように、最大の課題は「ぬか炊きをもっと多くの人に知ってもらうこと」だと言います。
その対策として、インターネットで販売するための商品として、業界初となるぬか炊きの缶詰の開発に着手。はじめは店の商品を缶に詰めるだけでできると思っていたそうですが、実際にやってみるとそう簡単ではなく、完成までに1年ほどを要したそうです。店の味をそのまま再現するために水分量の調節や味付けを根本から工夫、また手にとってもらいやすいようパッケージもおしゃれなものにしたと言います。
また、「スペアリブのぬか炊き」(350円)も雄介さん考案のオリジナル商品。この商品は雄介さんが企画していた「ぬ角打ちナイト」というイベントから生まれたものだそうです。
「その他にもイベントに出店したり、旦過市場の若手で集まってネットショップを2020年9月に立ち上げたりしました。“ぬか炊き”自体が話題になるよう工夫をすることで、ぬか炊きの知名度が上がり、小倉のお土産と言えば『ぬか炊き』と言ってもらえるようになるのではないかと信じています」と雄介さん。
「一般的に福岡といえば『明太子』がお土産の代表ですよね。それと同様に『ぬかだき』を北九州名物としての知名度をさらに上げていく事が一つの目標ですね」と最後に今後の抱負を語ってくれました。
店名 | 百年床 宇佐美商店 |
住所 | 北九州市小倉北区魚町4丁目1-30 |
営業時間 | 月〜土曜 10:00〜18:00 日曜 11:00〜17:30 |
店休日 | 不定休 |
ウェブサイト | https://www.xn--hwtvb026i.com/ |
(北九州ノコト編集部)