「父の作った野菜を『乾燥野菜・野菜パウダー』に」/横野夏菜さん(Noco.4)
北九州・門司で、かつて祖母が住んでいた家を改装し、レンタルスペース「Noco.4」(門司区柳町2-4-6 2階)を運営する横野夏菜さん。「とりあえず、やってみよう!」をモットーに、レンタルスペースの運営に加え、お香細工を作ったり、手芸品を作ったり、さまざまなことに挑戦している横野さんが、今年2月から「乾燥野菜」と「野菜パウダー」を作り始め、販売を開始しました。
その2商品の誕生に秘められた父娘の物語について、話を聞きました。
飲食店としてオープンしたもののコロナ禍で営業断念
お店とお店の間にある扉が開いている時が「Noco.4」営業中の合図。細い通路を進み、階段を上がった2階には、横野さんの祖母が暮らしていた懐かしい雰囲気を残した畳敷きのスペースが広がります。靴を脱いでのんびりくつろぐことができる隠れ家のような空間は、親子向けの教室やマルシェでの利用はもちろん、キッチンスペースもあるのでカフェイベントでの利用も可能です。
2019年9月のオープン当初は飲食店としてスタートしましたが、料理を作る日々の中で「私、料理があまり好きじゃないかも…」と横野さん自身が気付き始めた頃に、新型コロナウイルス感染症が流行し始めました。そこで飲食店としての営業を止め、この場所を使って横野さんによる足もみマッサージやお香細工などの手作り品の販売などを行うほか、スペース貸しも始めました。
しかし、お客さんに来店してもらうのが難しいコロナ禍で、営業したくても営業できない状況に追い込まれた横野さんは、オンライン販売にも挑戦することに。その中で、横野さんのお父さん「けんじぃーちゃん」が作る野菜を使った新商品も作って販売できないかと考え、誕生したのが「乾燥野菜」と「野菜パウダー」です。
20年前から始めた野菜作りが今や「けんじぃーちゃん」の生き甲斐
「けんじぃーちゃん」が野菜を作り始めたのは約20年前のこと。「Noco.4」の店舗がある場所に住んでいたけんじぃーちゃんの母(横野さんにとっては祖母)が伴侶を亡くし、認知症気味に。日々ぼんやりと1人で暮らす母を見かねたけんじぃーちゃんが、「やることがあれば生きていけるから!」と母を外に連れ出すきっかけとして、門司区内で畑を始めたことが野菜作りのスタートでした。
「畑で死にたい」と言うほど土を触ることが大好きになったけんじぃーちゃんは、母が亡くなった後も毎日畑で汗を流しながら野菜を育て、孫(横野さんの子ども)が生まれてからは「いいものを食べさせてやりたい」と農薬を使わず野菜を作っています。収穫した野菜は娘の横野さんはもちろん、近所の人たちにも配ってまわり、お返しとして総菜やパン、お菓子などをもらって食べ物には困らない暮らしを送っているそうです。
しかし、野菜作りへの熱意の高まりと比例するかのように畑のスペースは年々拡大。現在は体育館2つ分くらいの広さはありそうだという家庭菜園とはいえない程の広い面積の畑で、家では食べ切れないほどの量の野菜が育てられています。
大量にできすぎた野菜をスーパーマーケットや道の駅に卸してみたり、イベントに出店してみたりしてみましたが、慣れない作業に疲れ果てたけんじぃーちゃんは「もうやりたくない。ワシは畑を耕したいんだ」と野菜の販売を諦めてしまいました。「行き場がなく、廃棄寸前の野菜たちを無駄にしたくない。父のためにも野菜をどうにかして活用したい」との思いで娘の横野さんもいろいろ提案しましたが、どれにも父は首を振らなかったと言います。
モットーは「とりあえず、やってみよう!」 次の目標は「野菜パウダー」レシピ集の作成
そんな時、横野さんは野菜の乾燥機「フードドライヤー」と出会います。すぐさま購入し、父の野菜を乾燥させてみますが、「葉物はパリパリになってすぐ粉々になってしまうし…。これを売ってお金にして、農具や肥料の足しにしてもらおうと思っていたのに全然うまくいかなかった」とのこと。
そんな時、飲食店をやっている知人から「離乳食ケーキを作りたい」という話を聞いた横野さんは、離乳食を作るのが大変だったという自分自身の経験を思い出します。そして「離乳食を作る時に野菜パウダーがあったら便利なのでは?」とひらめき、乾燥野菜をゴリゴリと挽いてみると色鮮やかな野菜パウダーが完成しました。
「コロナでできた時間がたっぷりあったし、お客さんが来ないからNoco.4を作業場として使えたので『野菜を乾燥させてみよう。乾燥野菜を粉にしてみよう。とりあえず、やってみよう。失敗したら次やってみよう』と挑戦することができました。同じことばかりしていたら飽きるし、いろいろ試すのが好きなのでちょうどよかったのかも」と横野さん。
完成した野菜パウダーは、旨みが凝縮されて味が濃いのが特長です。ミニトマトや春菊、ほうれん草、ニンニク、ニンジンなどの種類があり、季節によって内容が変わり、瓶詰め(10グラム/1000円、20グラム/2000円)とお試し用(5グラム×5個/2000円)を用意。「大根の野菜パウダーに水を入れて大根おろしにしたり、ミニトマトの野菜パウダーをドレッシングなどの調味料に使ったり、春菊の野菜パウダーを白玉だんごに混ぜてみたり、野菜パウダーを使ったレシピ集を作るため私自身もいろいろな使い方を探しているところです。皆さんからも野菜パウダーの上手な使い方を教えてもらいたい」と横野さん。
野菜パウダー以外にも、細かく刻んだ荒めの粉末「細かく刻んだ乾燥野菜」(20グラム/1800円)や、味噌汁やスープなどの料理に使える「ズボラ母さんのみそ汁の具★乾燥野菜」(40グラム/1000円)などが揃っています。
「畑を愛しすぎる父が作りすぎた野菜に私がひと手間加えた『乾燥野菜&野菜パウダー』を皆さんにお届けできたら、父への親孝行にもなるのかな」と笑顔で話してくれました。
商品はオンライン販売のほか、マルシェなどのイベント出店時や「Noco.4」営業時に購入できるとのこと。詳しくは、「Noco.4」インスタグラムで確認できます。
※2021年4月15日現在の情報です
(北九州ノコト編集部)