【ファンファン北九州#20】ゼンリンミュージアム館長 佐藤渉さん<後編>
西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。
どうしてミュージアムの館長に?
甲木:横山さん。前回、地図は「読みもの」だと。
横山:そうですね。「見るもの」じゃない。「読みもの」だと。
甲木:ただの道具だと思っていましたが、「実は深い!」っていうお話をお聞きしました。今週も引き続き、ゼンリンミュージアム館長 佐藤渉さんをゲストにお招きし、お話を伺います。
佐藤:よろしくお願いします。
甲木:佐藤さんは、地図会社のゼンリンが作った地図博物館の館長なんですが、ゼンリンの社員さんでもあるんですよね。
佐藤:はい、そうです。
甲木:なぜ、このミュージアムの館長になられたんでしょうか?
佐藤:このミュージアムは昨年6月6日オープンしたんですが、その1年前の夏頃に、社内でミュージアムの公募があり、論文と面談試験を受けて、なんとか叶って採用されました。
甲木:手を挙げるくらいですから、すごくなりたかったんですよね。
佐藤:そうですね。元々、小さい頃から地図が好きで、是非そういった仕事に関わりたいなと漠然と思っていて、地図会社に入ったのもそういう期待が多少ありました。
国土地理院の地形図を入手 小さい頃から地図で塗り絵
甲木:子どもの頃から地図好きって、子どもの頃の地図って社会で習うような地図しか思い浮かばないですけど。
佐藤:地図帳ももちろんそうですけど、いつの頃からか国土地理院が出している地形図とかも手に入れておりまして。
甲木・横山:(笑い)
横山:山登りするときに使う?
佐藤:等高線が入っている地図ですね。田んぼとか畑とか土地利用を色分けしてみたり、等高線を赤い線で目立つようになぞってみたり、そんなことを小さい頃からやってました。(笑)
甲木:相当変わったお子さんですよね。(笑)地図の塗り絵ですか?
佐藤:地図の塗り絵みたいなものですよね。
甲木:えっと、それは何が楽しいんですか?(笑)
佐藤:塗り終わった地図を見ると、「ここに田んぼが広がっているのか」とか「ここに畑があって、線路があって、街並みがここにあるんだ!」みたいな。それと、等高線もあれば起伏も見えてくるので高低差が分かったり、地図を見ながら想像するのが好きだったんだと思います。
甲木:ほぉー!本当、タモリさんみたいですね。(笑)
学芸員を目指した学生時代
甲木:中々そこまでのめり込まないと思うんですけど、その地図好きは大きくなってからもずっと続いたんですか?
佐藤:そうですね。地図を見ていると一日遊べるくらいの感じで。
甲木:えっ!?何を遊ぶんですか?(笑)
佐藤:地名を見たりとかですね。「ここにこんな地名があるんだ」とか。
甲木:難しい地名とか?
佐藤:そうですね。
甲木:じゃあ、当然大学でも地図の勉強を?
佐藤:そうですね。地図の勉強をしておりました。
甲木:なるほど。本当だったら学芸員さんとかになりたくて、そういう大学に行かれたんですか?
佐藤:大学入るまではそこまでは考えていなかったんですけど、大学に入ったときに、博物館で働く仕事があることを知って、学芸員の資格が必要ということで学生時代に取得しました。
甲木:じゃあ、学芸員の資格は取ったけどゼンリンの社員。
佐藤:そうですね。非常に狭き門だということもありまして、学芸員の就職は叶わず…。同じ仕事をするなら地図に関わる仕事が良いなと思い、地図の会社をいくつか受けまして、ゼンリンに就職いたしました。
甲木:でも、佐藤さんが地図を作るわけではないんですよね?
佐藤:そうですね。はじめは一営業マンとして住宅地図を販売する仕事をしておりました。
日本を植民地化から守った地図(あくまで個人的な見解です)
甲木:そんな中、巡ってきた今回の公募でしょう?さっき論文とおっしゃっていましたが、どんな論文を書かれたんですか?
佐藤:お題として地図が3つ提示されて、その中で1つ自分の好きなものを選んで、それについて論文を書くというものでした。
甲木:ちなみに、佐藤さんは何の地図を選ばれたんですか?
佐藤:私は、オランダのリンスホーテン(1563~1611)という方が描いた東アジアの地図を選びました。中国からインドシナ半島、東南アジアの島々、フィリピン、そして日本が収録範囲の古地図ですね。日本の形は、ちょっと東日本が欠けたような、紀伊半島から九州までの西日本部分しかないエビの形をした日本が描かれた地図ですね。
甲木:なんか似ても似つかない。
横山:北海道も東京もないですよ。
佐藤:ないですね。まだ、東京はおろか北海道も全くありません。私の個人的な見解ですが、最終的には日本を植民地化されることから守った地図だと思っています。これは、元々、ポルトガルの人が作った地図になります。大航海時代に入る前は、シルクロードで東方とヨーロッパが貿易をしていましたが、途中、イスラム勢力が強くなってしまってシルクロードが断たれてしまうんですね。
それで、困ったヨーロッパの人たちが海に進出し、大航海時代が始まります。目的は、貿易で非常に儲かる香辛料を得ること。そこに最初に来たのがポルトガルで、アジアの地域との貿易で潤っていた時代の地図になります。ですが、リンスホーテンはオランダの方で、これを密かに描き写しまして、自国に帰って出版をするんですね。それによって、今度はオランダなどの国々がアジアに進出することができるようになった。そういうきっかけになった地図なんです。
甲木:なるほど。
佐藤:当時、ポルトガルはインドのゴアやマラッカを占領していきます。マカオでも居住許可を得ていました。日本も長崎の港が、実はイエズス会によって7年間統治された時代があって、そのままでいたら日本は植民地になってたかもしれない。それが、オランダが進出することによって、ポルトガルが駆逐されて日本が植民地化から逃れることができたんじゃないかと。これは、私の勝手な想像も含まれていますが、そういう地図じゃないかなと思います。
甲木:じゃあ、リンスホーテンさんがこの地図を描かなかったら、ポルトガルがガンガン攻めてきてたってことになりますよね?
佐藤:可能性はありますね。
甲木:へぇー!学校でそういう勉強をしたかったですね。
横山:地図を「読む」ってこういうことなんですね。
甲木:そうですね。館長、リンスホーテンの説明されている時も、生き生きとされてましたよ!本当に地図がお好きなのが伝わります!
〇ゲスト:佐藤渉さん(ゼンリンミュージアム館長 学芸員)
■施設名/ゼンリンミュージアム
■住所/北九州市小倉北区室町1-1-1リバーウォーク北九州14F
■問い合わせ/TEL093-592-9082
■開館時間/10:00~17:00
■休館日/月曜(ただし祝日の場合は翌平日) ※年末年始等、臨時休館あり
■入館料/1000円(保護者同伴の小学生以下は無料)
〇出演:甲木正子(西日本新聞社北九州本社)、横山智徳(同)
(西日本新聞社北九州本社)