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自分を取り戻す時間を~茶室の或る書店「七緒ブックス」【北九州市】

(アイキャッチ画像はイメージ)

立春の吉日、春の陽気を感じる良き日、北九州市の某所にある「七緒ブックス」を訪れました。

はじまりは1冊の本から

七緒ブックスとの出逢いは、年明け1月9日、インスタグラムに流れてきた1冊の本の紹介の投稿でした。

筆者の娘が高校時代の恩師から、おすすめの本として紹介された喜多川泰著「手紙屋」。

成人の日を前に新成人へのお祝いの言葉とともに、店主の七緒さん(ニックネームだそう)のフィルターを通して、この本の紹介が綴られていました。

その文章を見て、七緒さんに「お逢いしてみたい!」しかも、お店の紹介文が、「手紙屋」の作中に存在する「書楽」のようで「これはもう行くしかない!」と、私の中の好奇心が動きだしたのです。

教えてもらった目印をたよりに辿り着くと、そこは数年前からお気に入りで通っているパン屋さんのすぐ傍で、なんとも不思議なご縁を感じました。

「どうぞ中へお入りください」。店主の七緒さんが穏やかな笑顔で迎えてくれました。

茶室に導かれて

入口で手指を消毒した後、1つの部屋へ案内されました。部屋の正面には広い床の間に立派な掛け軸が飾られており、その右横には琵琶が飾られています。

「どうぞお座りください」と声をかけられ、畳に腰を下ろすと、自然と正座の姿勢に。背筋がすーっと伸びるのを感じました。

目に入る書籍が、どれも心躍るものばかりで目移りしていると、「こちらの中からお好きなお菓子を1つお選びください」と店主。この日は店主ゆかりの地、門司港の老舗洋菓子店「カワシマ」のロールケーキと焼き菓子。そして、門司港の路地裏にある近年、大人気の菓子店「GOURD」の焼き菓子たち。

移転前の「カワシマ」をご存じという店主の話を伺って、昔懐かし、かつて門司港にあったデパート「山城屋」の話になったりと、もじもじっこ(筆者)の郷愁をさそう、素敵なおもてなしでありました。

この日の飲み物は「紅茶・ほうじ茶・緑茶・コーヒー」それぞれこだわりの1品。その中から、GOURDの和栗のケーキにあわせて、ほうじ茶をお願いしました。

書棚の本たちを眺めていると、ほどなく、「門司港にちなんで、器も門司港の窯元、濱田窯の器にしてみました」と、これまたぐっとくるおもてなしを。

七緒ブックスはこの茶室ありき

正座の姿勢の筆者を見て、「どうぞ楽にされてくださいね」と店主。「なぜか、背筋がすっと伸びて正座になったんです」と答えると、「実は…」と、この部屋にまつわるエピソードを教えてくださいました。

七緒ブックスのこのひと部屋は、太宰府市にある表千家九州茶道館の茶室「松風楼(しょうふうろう)」の写し(方位、寸法を再現している)とのこと。お抹茶教室の先生からのご縁で10年ほど前に先代から譲りうけたといいます。

「この茶室を見て、茶室は古来から人が集う場、ひとり占めしないで、この場所をご縁のある方々と共有できたら」「七緒ブックスはこの茶室ありき。茶室に呼ばれたのかも」と、書店をはじめた経緯をきらきらとした表情で語る店主。ふと見ると、部屋の中央の畳は炉が切られており、小間でいうこところのにじり口も。

部屋に入ってすぐ目にとまった琵琶。「何故こんな所に。なにか謂れのあるものなのかな」と不思議に思っていましたが、表千家「松風楼」は1921(大正10)年に惺斎によって増築されたもので、八畳敷の中央に床があり、その右脇に琵琶台(琵琶を置く台)が設けられているものと知って納得。店主自身もお茶をたしなんでいて、良いお抹茶が手に入ったときは和菓子とともにお抹茶をもてなすこともあるのだとか。

あたためた思い~開室~日々大切にしていること

茶室に導かれて10年、すこしずつあたためてきた思いと、コロナ渦の閉塞した時代にも会員制、予約制のプライベートなこの空間。これなら、ゆっくりと自分時間を過ごしてもらえるのでは!という思いが沸き上がってきたという店主。

老舗古書店のお手伝いやカフェの一角での書籍販売、マルシェの出店などの経験をつみ、たくさんのご縁と周囲のサポートに支えられ、2022年2月22日吉日に「七緒ブックス」を開室。「(1)大人が心をととのえる場所づくり」(しずかに過ごしていただくために会員制、予約制。当面の利用は2人まで)、「(2)こどもが大切にされる場所づくり」(赤ちゃんは泣くのが自然です。授乳やおむつ替え、気兼ねなくゆっくりとお過ごしください)といったことを七緒ブックスの理念として掲げています(一部抜粋)。

そのため、「家庭でも仕事場でもない第3の場所。サードプレイス。自分を取り戻す時間」「『とびきり居心地の良い場所』として、子育て中のお母さんたちにも安らぎの場所になったら」という思いから赤ちゃん連れの人の利用を優先していると話してくれました。

そんなお話を聞きながら、七緒ブックスのインスタグラムのアイコンの「女神」の画が始終、筆者の頭の中に浮かんでいて、七緒さんは女神の魂が宿っているのかもと感じたのでした。

1年の振り返りと七緒ブックスのこれから

「今後は本の充実を図りつつ、この茶室でご縁をつなげていけたら…。でも、無理をせずに。禅語の『七走一坐(しちそういちざ)』のように七回走ったら一回坐ってのんびり成長できたら」「必要な方が必要なタイミングで当室を見つけてくださったら」と、店主の七緒さん。ただただひたすらに無償の愛を感じた七緒ブックスはほどなく1周年を迎えます。

お店の詳細は「本とお茶じかん 七緒ブックス」インスタグラムで確認できます。

■所在地/北九州市某所 ※詳細はインスタグラムのDMで問い合わせ
■営業時間/9:00~19:00
■営業日/土・日曜(その他時々お休みあり)
■駐車場/あり(要問い合わせ)

※2023年2月16日現在の情報です

(ライター・kohalu.7)

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