「彼女は夢で踊る」監督&出演女優がエピソード披露 小倉昭和館のトークイベント
―矢沢さんがストリッパーになったきっかけは?(樋口館主)
矢沢さん きっかけは「やってみないか」と言われたこと。ストリップを知らなかったですし、見たこともなくて。でもチャレンジしてみたいなと思ったんです、自然に。それまでやっていたお仕事もあったんですけど、違うステージに1歩踏み出すような感じで。ちょっと変身願望などもありましたし、いろんな自分を探してみたくなりました。ステージに立って、前に行くというのも初めての体験でしたね。
時川監督 ある意味特殊なお仕事をされているからこそ持っているムードもありますし、普段ステージの上で形は違えど演技をされているんだと思うんですよね。それを普通の映画のお芝居に持ってこられたなっていう感じは撮影していて思いましたね。
矢沢さん 監督は「そのままでいいから」と言ってくれてましたよね。ステージでやっているままでいいからって言われたんですけど、カメラがこうあって、その前で加藤さんだと思ってしゃべってみてって言われたらどうしますか(笑)
時川監督 だってあまりいろいろ言うと、またロボットになるから(笑) でもカメラがたくさんあってスタッフもたくさんいる中で演技をするということは、経験ある役者さんも緊張されるみたいです。
―監督が広島で映画を撮る理由は?(樋口館主)
時川監督 若い頃は長く東京に住んでいたり、海外に住んでたりしたんですけれど、広島に普段住んでいるので今のところ題材が結構身近に見つかっているんですよね。横山さんの「ラジオの恋」だったり、(広島東洋)カープの話を描いた「鯉のはなシアター」だったり、福山市の映画館を舞台にした「シネマの天使」だったり。そういった身近なところに題材が現れて、それを料理していくみたいな感じ。自然な感じで今できているんですね。もちろんいろいろな場所でも撮ってみたいと思っているし、北九州のフィルムコミッションがすごいという話は業界では有名なので、ストーリーが見つかったらぜひ北九州でも撮ってみたいですね。
―撮影中のエピソードを教えてください(樋口館主)
時川監督 終わり方が変わったことですかね。㐧一劇場が最後壊されて何もなくなった更地になったところに加藤さんがポツンと立っていて、そこに矢沢さんが来て「あんた何いつまでもこんなとこにいるのよ。スタッフがみんな心配しているでしょ。私もストリッパーやめたよ。もういい加減にしなさいよ。お好み焼きでも食べに行こうよ」みたいに言うと、加藤さんが「そうだな」って言って、2人で歩き去るっていうのが本当のエンディングだったんですよ。そしたら、撮影している最中に劇場館長がやめないって言ったもんだから、「えーっ!これラストシーンどうするんだ」って。加藤さんと横山さんと撮影の合間に「ラストシーンどうしよう。新しく考えなきゃならない」って悩んで。
どうしてもこの日にラストシーンを撮らなきゃいけないっていう日があって、その日の朝になっても僕にはアイデアが思い浮かんでなくて…。その日は朝早くから川のシーンとか撮っていたりして、そこから帰ってくる時に車の中で「あ、そうだ」と思ったのが、矢沢さんとかが踊っているステージの上で加藤さん演じる館長が法被を着て踊ること。このシーンは、映画の脚本の中にはなくて、どこに入れたらいいか分からないけどおもしろいし、夢のシーンとかで使えるかもしれないから撮ろうかなと思ってたんです。そのシーンをラストに持ってきたら、おもしろいエンディングになるんじゃなかなと車の中で思いついて、現場に戻って加藤さんに「ラストシーンを加藤さんが踊るのにしたいんですよ」って言ったら、加藤さんがポカンとして。「そんなので大丈夫なの?」と。それから撮り始めたんですが、実は加藤さんは撮影時に1時間くらい踊ってるんです。「こんなの使わないだろ」とずっと文句言いながら踊ってたというエピソードがあります(笑)
矢沢さん そのシーンは私、呼ばれなかった(笑) 加藤さんの中でできあがってたみたいです。「あえて音楽には乗らないんだ」って言ってました。「合わせない、それがいい」って。雰囲気があって私は好きです。
時川監督 それは後付けで、踊っている時は多分何も考えてなかったと思います(笑) 僕は岩井俊二監督に一時お世話になっていたりして、すごく影響を受けたんですけど、岩井監督にも「あのラストシーンが素晴らしい」と言っていただいたり。僕はこのへんまで「あれは偶然できたエンディングなんです」と出かけたけど言わなかったですね。本当にいろんな奇跡が重なってできた映画です。
矢沢さん 㐧一劇場のラストステージというシーンで、松山千春さんの「恋」に乗って私が演じるヨーコがステージに現れるんですけれど、その時に客席を眺めて「はぁー」となったのを覚えていますね。どういう気持ちなのかよく分からないのですが、アドレナリンが出たというか。「これが最後の風景になるのね」って感じ。引退する時の光景はこんななのかって。私自身はまだまだ引退とは言いたくないですけど。