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築古の元公営団地を再生「門司港1950団地」とは? 入居者がDIYで“世界にひとつだけの部屋”へ【北九州市門司区】

(アイキャッチ画像:門司港1950団地のB棟)

転機は家業の不動産を継いだこと

現在、吉浦ビルの代表を務める吉浦さんですが、実はもともと不動産業に従事しているわけではないと聞き、意外に感じました。

吉浦さんは山口県下関市生まれで、家業は8代続く農業。自身が学生の時に一家で福岡市へ転居して以来、福岡市で育ちました。

大学を卒業したあとは、現在の仕事に就くまでは、大手企業のサラリーマンや海外留学などで過ごしてきたそうです。

転機は2012年、祖父が病で倒れたことでした。農業の傍ら、ビルを所有していた、祖父。そのビルは、住居物件で、築40年(当時)と外装も内装も古い上、都心部からやや離れていたこともあり、満室にはほど遠い物件だったようです。

新築のような家賃設定にはできないので安い設定にせざるを得ない上、古いので補修費もかさむという課題もありました。聞けば聞くほど、まさに“負動産”とも言える厳しい状況です。

祖父は管理できる健康状態ではなく、必然的に子である吉浦さんの父へ、継承の話が来ましたが、「解体・新築派」だったお父様は、引き継ぎませんでした。解体して新たに建築となると、億単位で借入れが発生します。苦境の中、孫である吉浦さんが継承しました。

古いものを活用する──海外生活で価値観が真逆に

ビルのオーナー業を引き受けた吉浦さんは、その築古マンションを解体ではなく、部屋はリノベーションをして建物を利活用、貸し出すことを試みました。そのきっかけは、海外での生活体験にあったといいます。

日本では、新築物件など新しいものに注目が集まりがちです。反面、海外では古いものに価値を見出し、古い建物群が味わい深く街の景観に溶け込んでいる──そんな文化の違いに、それまでの価値観が一変したそうです。

そこで、築古の自社マンションの部屋を、テイスト別にリノベーションしました。テーマは、ガーデン、アジアン、ブルックリンと、“無”の4種類。“無”というのは、“スケルトン”と呼ばれている、内装には手を付けていない、むきだしの空間のことです。

“無”の部屋は、入居者が好きなようにDIYなどしてOK、しかも退去の際は原状回復(元の状態に戻すこと)を求めないとして入居者募集をしたところ、作り込まれたテーマ別の部屋を抑えて、“無”が一番人気になりました。

結局その部屋を借りた主は、予算100万円をかけて自分好みに創り上げました。満足気な借主を目の当たりにした吉浦さんは、そこで大切な気づきを得ました。

入居当時、独身だった入居者は、所帯をもつことになり“寿退去”をしたそうです。リノベーションをしたおかげで、その部屋は価値が高まり、家賃の価格帯は地域相応に設定できるようになったといいます。

以降、スケルトン渡しで、借り手にDIYを行ってもらい、退去時はもとに戻さずそのままで、という経営スタイルが確立。吉浦さんの提案の合理性に、深く納得させられました。

「渋沢プロジェクト」始動 3ヶ月で満室に

「家賃1万円、改装は入居者がDIY。その材料費は会社が負担、DIYも教えます」

その真意は“貸し手も借り手も同等である”という考えだと知り、人情溢れる吉浦さんの人柄に感銘を受けました。

3年目以降は家賃3万円に移行する条件でありながら、SNSで募集すること3ヶ月で全34室は満室になったというから、驚きです。

「世界に一つだけの部屋」を目指して、クリエイティブな人たちや、夢をカタチにしたい人たちの心に刺さったプロジェクト。住まいはもちろん、やってみたかった店や事業所など用途は自由ということで、何とも寛大な物件でもあります。

(A棟の屋上から見たB棟。壁につたう葉がアートのよう)

そして、吉浦さんは借りてくれる人たちのことを、単なる「借り手」ではなく、団地の再生をともに目指す“仲間”であり“同志”と捉えていることが伝わってきます。

貸す側も借りる側も、バランスのよい関係性を大切にする。空間は提供しているものの、団地のコミュニティも含めて、自主性に任せているというスタイルも、吉浦さんらしいと思いました。

入居者に任せる創意工夫のコミュニティ

8月のある日曜日、再びA棟を訪れると、3つある木製の扉のうち一つだけが開いていました。開店していない場合は、棟の扉は閉まっており鍵が掛けられています。

入り口に近づくと、小さめの黒板があり、どの部屋に何が入店しているのか、一目で分かるように描かれていました。営業日の曜日や営業時間の記載があって分かりやすくて、とても助かりました。

この日営業していた雑貨店の店主によると、黒板に各店の営業情報を書いた人は、まだ開業前、準備中の人だそうです。自分たちが創っているのは部屋だけはなく、団地全体の価値そのものなのだという、誇りや決意が感じられます。

入居者が互いに助け合うコミュニティは、「DIYの副産物」だと語る吉浦さんの温かく見守るような表情が印象的でした。

地域の一員として、自分ごとに考えて一歩踏み出し、仲間をつくり共生する──そんな繋がりをお互いに大切にしながら、団地が育っているように感じられました。

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