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「3人の女性」と「小倉昭和館」との交流で教えられたこと

(アイキャッチ画像はイメージ)

JR小倉駅から歩いて5分という好アクセスの場所にある「小倉昭和館(以下、昭和館)」は、創業83年、北九州の文化を語るには切り離せない老舗映画館です。「見逃した!もう一度見たい!スタッフおすすめ!」と題し、一度上映された作品を再上映してくれる貴重な映画館です。テーマを設け、時には企画と組み合わせて私たちを魅了します。オールナイト上映や監督トークショーなども魅力の昭和館では、上映館が2つあります。

4月15日までは、昭和館1号館では、【現在・過去・未来へ タイムスリップ2本立て】というテーマで、「ブレイブ 群青戦記」(2021年、本広克行監督)&「夏への扉 キミのいる未来へ」(2021年、三木孝弘監督)の上映。そして昭和館2号館では【田中絹代監督作品 2本立て】とし「月は上りぬ」「乳房よ永遠なれ」(どちらも1955年作品)が上映されていました。

俳優・三浦春馬さんのファンの筆者は、彼の出演作品「ブレイブ 群青戦記」を一人でゆっくり観たくて、先日昭和館へ行きました。全国上映の封切とともに映画を鑑賞することが難しい身としては、こうして大きなスクリーンで作品を味わえる感動、そのような環境が身近にあることは、ありがたくてありがたくて仕方がないことです。

ロビーに設置された春馬さんのファンコーナー

昨年、春馬さんの一周忌の7月に、主演作品2本立てを上映した昭和館。 筆者も足を運びましたが、その際、ロビーには、彼を悼んでたくさんのお花やメッセージなどが寄せられていました。皆の深い悲しみを癒してくれるような、あたたかく素敵な春馬さんファンコーナーは、小倉昭和館が行っているものではなく、春馬さんのファン有志が館内の一部を借りて運営している、ということでした。寄せられた似顔絵やお花は、ファンの方からの提供だそうです。

今回の上映作品は彼の主演作品ではありませんが、このような心づかいがされており筆者は大変感激しました。 会ったことはない有志の方へ感謝をしながら、春らしい桜のカタチをしたメッセージカードに想いを書いて、ペタリと「木」に咲かせました。

さらに4月は彼の誕生月。バースデーケーキの台紙に、桜の型スタンプ(ケーキのロウソクの炎に見立て)を押すことができる演出もありました。

また、下記の左写真は、半券を貼り記念になるよう工夫された手作りカード。「春友」さんへの想い出作りのお手伝いがしたい、という心づかいが素敵です。筆者も貼ってみました(写真右)。チケット自体には作品名の記載がないので嬉しいです。

上映時間が近づいていたためロビーにはほぼ人はおらず、ファンコーナーをゆっくり眺めていた時のことです。一緒のグループのような3人の女性に目が留まりました。ふと直感が働き、「こちらを作った有志の方ですか?」と思わず口から声が出ました。 かねてより温めておいた感謝の言葉を今こそ吐き出したかったからでしょうか。声を掛けずにはいられませんでした。ところで、「ありがとう」という言葉の力は最強ですね。伝えるとさらに体中が幸せ感でいっぱいになるのですから。

「想いを繋いで」 ~引き寄せられて、つながって~

映画鑑賞後、余韻に浸りながら再びロビーへ行くと、先ほどの女性たちと引き寄せられるように近づき合い、自然と和ができました。個人単位で孤独にファンをしてきた筆者にとって気になっていたのは、このような空間を創るに至った彼女たちの経緯でした。

今回お話を聞いた「イチゴ」さん、「いちよこ」さん、いちよこさんの友人「奈緒」さんの3人は、全員北九州市内在住。

そもそも知らない者同士だったという、イチゴさんといちよこさんが、あるとき、チャチャタウン小倉の映画館で、春馬さんの出演映画を観るため、映画鑑賞券の購入列に並んだそうです。並んだ列で初対面、春馬さんファンという共通点で意気投合したものの、その日は「列に並んだ前と後」の関係で終わったそうです。

その後、上映当日、発券機で並んだ際に、後ろの人にぶつかってしまったいちよこさん。謝るため振り向いたらイチゴさんだった、というミラクル!再会のミラクル感をいだきながらも連絡先は交換せず、その日は別れたそうです。今度はイオン戸畑の映画館で春馬さんがメインキャストを演じた「太陽の子」の映画鑑賞券購入の列で…またもや再会! これはもう御縁だろうと、連絡先を交換したということです。

昨年の夏、昭和館で春馬さんの主演作品2作品が上映されることを知ったイチゴさん。居ても立ってもいられず、何かしたいと考えていたと振り返ります。 その中でイチゴさんは、昭和館へ行って館主へ「お手伝いをさせてください」と話したそうです。そして、イチゴさんは、いちよこさんへ連絡。 そして、友人の奈緒さんを誘い、3人で集まり、ファンコーナーを立ち上げ、今に至るそうです。今回お話しを聞いた中でも、場所を貸してくれる昭和館へ感謝の言葉を何度も口にされていました。

小倉昭和館での鑑賞を、これからも、ずっと

話を聞きながら、筆者は昭和館の寛大さに大いに惹かれ、包容力に圧倒されました。 心の交流というのでしょうか、彼女たちが掲げたテーマ「想いを繫げて」は、思っていたよりももっと広い定義なのかもしれないと感じました。彼女たちに、深い悲しみから立ち上がり明日へと生きる人間の覚悟のような力強さを覚えました。そんな彼女たちにそっと寄り添う昭和館の優しい心遣いに敬意を表します。スクリーンで会える、というのは一つの希望です。これからもずっと続いてほしいから、昭和館へ、そして映画館へ行くことを改めて決意しました。

さて、ファンコーナーについてですが、昭和館ではテーマを設けて作品上映しているため、ロビーもそれに沿ったものに模様替えしています。そのため、今回のように個人のグループが借りることは難しい場合もあるということでした。それでも昭和館で春馬さんの出演作品が上映される際は、ささやかでもこうして想いを繋げていければ…と有志の皆さんは願いを込めて話していました。

映画館で映画を観る…。今回筆者が偶然出会えた人たちは、昭和館に行っていなければ出会うことがなかった人たちです。当たり前ですが、自宅で観れば、その出会いもないのです。あらためて映画館という場所は、地域の文化の花を咲かせる機能、役割があるのだと教えられました。

昭和館オリジナル珈琲などを映画鑑賞のお供に

さて、小倉昭和館ではオリジナルの商品があるのでぜひ味わっていただきたいです。大野城市の「豆香洞(とうかどう)コーヒー」(2013年コーヒー焙煎技術を競う世界大会で優勝!)が昭和館のオリジナルコーヒーをブレンド。コクとほろ苦さが特徴の逸品です。豊かな深い香りも気持ちを和らげてくれます。

また、「シネマキャラメル」は、小倉南区にあるソーシャルファーム髙山(障がい者の自立支援企業)から販売のオリジナル。「塩味」とありますが、本当に優しい風味で懐かしい口当たりですよ。鑑賞のお供にいかがでしょうか。

ただし、小倉昭和館は旦過市場周辺の火災の影響を受け、当面の間、全館休館とのことです。

※2022年4月23日現在の情報です

(ライター・しまだじゅんこ)

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