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「日本の文化が私を変えた」/アン・クレシーニ(北九州市立大准教授・言語学者)

論理的な考えができる人を育てたい

―北九州の大学生と接していて、どんなことを感じますか?
「今の若者には好奇心が足りないと感じます。自分の意見をうまく話せないし、あまり考えていないように見えます。これは、日本の社会が保守的で、意見を言ってはいけない社会だからだと思います。大人は自由に考えを述べるようにと言いますが、本当は意見を言ってはいけない社会です。『出る杭は打たれる』社会なのです」

「ある時、学生が、子どもが小さい時は、母親は外で働くべきではない、という意見を発表しました。私は子どもがいますが、こうして働いています。『悪い母親なんですか?』と問いかけました。周りの学生は『先生と反対の意見で大丈夫なの?』というように心配そうな顔をしていました。ですが、その学生は『子どもには、家で待っていてくれる母親がいた方がよいと思います』と意見を言ってくれたのです。私は学生に拍手をして、ほめました。しっかりと意見を話してくれて、ありがとう。こういうように、私に意見を言えることが大切なんですよ、と」

「私は意見がきちんと言える学生を育てたい。私の仕事は英語を教えることではなくて、論理的な考えができる人を育てることだと思う」

―どのように授業をしていますか?
「英語の授業でも、まずは日本語で考える力をつけるトレーニングをしています。例えば、同性愛や安楽死、死刑制度といったテーマを与えて、意見を発表してもらいます」

―普通の英語の授業とはまったく違いますね。考える力をつけて話せるようになるまで、時間がかかりそうです。
「いいえ。数週間もすれば、みんな自分の意見を話せるようになるんです。学生たちは”なぜ”という問いかけをこれまで、追求していなかったのです。若者たちに刺激を与えていくことが、大人の責任だと思います。そして、大人は意見を言うことをほめてあげて、自信を持たせることが大切なんです」

「自分は大事な仕事を与えられていると思っています。若者たちには何かを深く知って欲しいのです。興味があることを見つけて欲しい。いつも”なぜ”を考えていくことで、論理的に考える力をつけて欲しいと思っています」

―安楽死や死刑制度など、友人や家族とも意見が合わないことがある難しいテーマですね。
「自分と違う意見の人のことを考えて欲しいですし、他の人の視点で考えられる人になって欲しいのです。冷静に、お互いを尊重しながら考えて欲しいのです。『相手の考えや意見に共感できなくても、お互いを尊重する』と、こう考えられれば、人はさまざまな問題を解決できるはずです」

人は知らない文化にネガティブになる

「何年か前に英語の本を12冊、書いた時は、日本の文化の土台になっている『世界感』や『価値観』のことをぜんぜん理解していなかったので、日本の育児や教育のことを批判的にみていました。今はぜんぜん考えが違います。その頃は、”不思議な日本”、”アメリカが正しい”と思っていましたから」

「人は無意識に自分の考えが正しくて、相手の考えがおかしいと考えがちです。この世界をうまくいくようにするためには、他人の世界感を理解しようとすることが大切です。自分の方が正しいと思うと、相手を批判することになる。”なぜ”を理解するように努めないと、本当のことは理解できない。自分のアタリマエは相手にとってはアタリマエじゃない。特に異文化についてはそうです」

―学外でも活動をしていますか?
「最近は自治体や企業の講演会の講師をしています。和製英語などの言葉の話以外にも、人権や文化の違いについて話をしています。立場や考えが違う人について、相手の立場や世界感『どうやってこの世界を見るか』を尊重して、考えて欲しいと話しています。講演会では直接、話を聞いてくれた人から反応があるので、今では一番、好きな仕事です。どのように自分の話しが伝わったのか、相手がどんなことを考えたのか、毎回、聞いてくれた方々とお話しができることが楽しみです」

人生を変えた大切な人との出会い

「私は、考えがまるで違う人、信じている宗教や大事にしていることがまったく違う人と親友になったことで、人生が変わりました」

―その方が、毎日、お話しをしているマキコさんですね?
「そうです。今も毎日、何時間も話しをしていて、何かを学んでいます。マキコさんは仏教徒の京都人で、日本人より日本人らしい”純日本人”だと思う。私はクリスチャンで一神教だから、多神教を信じている彼女とはまったく考えが合わなくて、大激論があって、今では大親友になりました。今も2カ月に一度は食べ物のことで大げんかをしてますけど」

「いただきます」は命をいただくことへの感謝

「いただきます、は”Let’s eat!” じゃない。命をいただきます、という意味で命をいただくことに感謝する言葉でしょ。すばらしい言葉です。これが日本の食文化を理解する世界感です。お握りを少し残した時に、マキコさんにいけないことだと怒られて、1時間以上もそのことで話しをしました。ありえんでしょ?その時に、日本人が食べ物を大切にする考え方を教わりました」

ーマキコさんに会ったのはいつ頃ですか?
「北九州に10年以上住んで、宗像に移ってからです。日本語が話せるようになって、日本の文化も勉強して、すべてわかったと思っていました。実は表面的なことを知っただけで、日本の文化の土台にある『世界感』のことを理解していなかったのです。マキコさんのことを理解したくて、日本の世界観を理解しようと思った。いっしょに料理をして、日本食を食べるようになって、自分で味噌を作って食べてみたら体調がよくなったのです。1年で摂食障害がよくなってきました。本当に驚いた」

―いつ摂食障害になったのですか?
「25年間、摂食障害と戦っています。ずっと長い間、食べ物は敵と思っていました。高校生の時、バスケットボールのコーチに、やせるともっとうまくなるとアドバイスされて、2,3カ月で20キロ、食べないようにしてゲキヤセしたん。そうすると人気者になったんですが、また太ったら、ヤバイ、人気もなくなると思って、食事が摂れなくなってしまったんです。わたしは何でも極端にする人だから、なんでもやりすぎてしまうところがある」

ー25年間、食事が敵で、今は日本食にハマっているのですね?
「日本食が大好きです。私は料理が”大嫌い”だから、昔の友達が聞いたら相当、びっくりする。3年前に味噌汁をつくれるようになって、2年前におせちも作った。マキコさんに料理、日本の食文化を教えてもらって、世界の見方が変わりました。日本の食文化にすごく感謝しています」

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