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「地元が好き」と気づいた/長野さくら(ゲストハウス女将)

本州と九州を隔てる関門海峡。
山口県下関市と福岡県北九州市を海底で結ぶ関門トンネルのすぐそばに、元旅館をリノベーションしてつくられた「門司港ゲストハウスポルト」(以下ポルト)はある。

ゲストハウスとは簡単に言うと安宿だ。一泊2〜3000円程で宿泊が可能で、主に長期で旅をするような外国人観光客や、宿泊費を抑えて各地を巡りたいという旅人が利用している。ゲストハウスの多くはドミトリーと言って相部屋になっていて、プライベート性の高いホテルや旅館とは異なり、宿泊者同士の交流も盛んに行われることが特徴のひとつである。

そんなゲストハウスで若くして女将を任され、国内外問わず、たくさんの宿泊ゲストをもてなす長野さくらさん。愛媛県松山市出身の彼女は高校を卒業後、生まれ育った小さなまちから飛び出してここ北九州までやってきた。

今まで限られた範囲での生活だったということもあっての反動なのか、大学在学中にはどんどん外の世界へと足を踏み入れていき、その道中でゲストハウスと出会った。気がついたときには世界を数十カ国渡り歩いており、見知らぬ土地で働いてみたり、水牛と一緒に川で水浴びをしたりと、その可愛らしく落ち着いた雰囲気からは想像しにくいほど活発な一面がある。

どんな場所を訪れようとも頭に浮かぶのは地元の風景

ーなぜ門司港で働こうと思ったのですか?
「ポルトで女将をやろうと決めたのは、ここのオーナーから声をかけてもらったのがきっかけです。その時は正直、自分で何ができるのかわからない状態でした。学生の頃に海外留学を経験し、その時にゲストハウスと出会い、各地でたくさんの体験をしました。その経験があったので、日本に帰ってきてもゲストハウスを探し、実際に運営に携わってみることにしました。ゆくゆくは自分の地元に戻って自ら宿を運営してみたいという想いも生まれていたので、挑戦してみようと思いました」

ー地元の愛媛でも宿をつくりたいという想いはいつから持っていたのですか。
「大学進学を機に地元を離れ、日本各地や世界各国に旅に出てたくさんの地域や場所を訪れました。その時はとにかく地元から外に出ていくことばかりを考えていたのですが、どこに行ったとしてもどんな絶景を見ようとも、地元の港から見える海が常に頭の中で再生されていました」

「自分の地元には何もないからつまらない、息苦しい。そんな風に思って外の世界を目指したのですが、結局脳裏に焼きついている景色は自分の生まれ育ったまちの海だったんです。その時に自分が『地元が好きなんだな』とようやく気づくことができました。それからというもの、地元への見方が変わり、このまちの魅力をもっとたくさんの人たちに知ってもらいたい、体験してもらいたいという思いがどんどん膨らんできて、今自分にできること、自分らしいことをしていこうと考えるようになりました」

ーすぐに地元の愛媛に帰るという選択は無かったのでしょうか。
「門司港と地元の街は、規模や常に海が見える環境、抱える課題が似ており、愛着が湧きました。地元の魅力を伝えることや、地域が抱える問題を解決することに力を注ぎたいと考えているので、その下地を門司港で培いたいという想いもありました。地元を外から俯瞰して見ることって重要だと思っています。ずっと同じ場所で生活するよりも外の世界を知って、そこから得られるエッセンスを地元に還元する。そうなると新しいことがうまれる可能性が高まるのではないかと考えています」

ー地元で宿をスタートさせる時期は決まっているのですか?
「現段階ではまだ時期は決めてはいません。今はさまざまなことに顔を突っ込んで経験を積むことが必要だと思って動いています。面白そうなことがあればそこに行きますし、アイスクリームを作って売ったり、老舗の餡子屋さんで修業してみたりと、一見して宿とは関係ないことでも、縁があればとりあえずやっています。自ら動いていると学びも多いです。それは将来、自分が宿をやる時に必ず役に立つことだと思います」

目に見えない何かを探している人の手助けができたらいいな

ー今後門司港ではどんな活動をしていきたいですか?何か計画していることがあれば教えてください。
「私は移住で門司港にきました。見知らぬ土地に移り住んだという経験を活かして、これから移住を考えている人や田舎暮らしを体験したいと考えている人たちに向けて、北九州の魅力を伝える文章を書いていきたいと考えています。雑誌なのか、フリーペーパーなのかはわからないですが、自分が好きな北九州の日常を切り取り、『ここにはこんな暮らしがあるよ。こんな素敵な場所と時間があるんだよ』ということを伝えたいです。『北九州に行ってみたい』と思ってもらえるような媒体を制作したいですね」

「(情報を届けたい相手として)イメージしているのは、都会に住んでいて、日々を忙しく過ごしている方や、そもそも田舎に縁もゆかりもない方。文章や写真を通して門司港や北九州を知ってもらって、実際に足を運んでもらいたいです。単純なまちの紹介にとどまらずにここでの暮らしを表現することを意識すれば、イメージしているターゲットに届いてくれると信じています」


ずっと気に入らなかった故郷を離れた彼女が、外の世界を知って新たに目指した場所は、実は地元のなに気ない風景だった。探していたものは遠く離れたどこかで拾ってこれるようなものではなく、自分のルーツの中に隠れ潜んでいたり、意外と近くにあったりするものなのだと気づかされる。

終始、言葉を選びながら話をしてくれた長野さん。その裏には自信と信念がしっかりと備わっていることが伝わってくる。酸いも甘いも経験した長野さんの目線で表現されるこの街は、いったいどのようなものになるのかとても楽しみだ。

(北九州ノコト・西方俊宏)

◆長野さくらさんプロフィール
門司港ゲストハウスポルト女将。地元・愛媛から門司港に移住し、この地の魅力を外に発信することに注力している。現在は自分で集めた地域の情報をZINE(個人で発行する冊子)にしようと企画中。

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