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「日本の文化が私を変えた」/アン・クレシーニ(北九州市立大准教授・言語学者)
「初プレゼン」が日本語
―アンちゃんの「TEDxFukuoka2018」でのスピーチ「世界観を知ると人は変わる」の動画を見ました。「異なる世界感、文化・言葉を理解しようとすれば人生は豊かになる」と訴えていましたね。
「あの時は3か月の間、何度も原稿を書きなおして準備しました。英語でスピーチしたことがないのに、日本語でスピーチをしたんですから。あれで自分が変わりました。人前で話しをすることが好きになったのです。子供の頃は”どもり”があったので、スピーキングの練習をずいぶんとして直しました。人前で話すことは苦手でした」
―人前で話すことが苦手だったのですか?とても信じられません。日本語で話すときは英語のときと人格が変わっていますか?
「そうです。英語で話すと面白くないと言われます。日本語で話すと受けるのにね」
「私の両親は教育者で、父は大学で社会学を教えていました。子どもの頃は夕食後、毎晩のように、父と言葉のクイズをしたり、哲学的な話をしていました。母はフランス語の講師なので、言葉に関心を持つ環境で育ちました。今、自分が大学で言葉を教えるようになって、両親にはとても感謝をしています」
人を理解するには「世界感」を理解する
ー「他人と自分の過去は変えられないが、自分の将来は変えられる」(エリック・バーン)という名言も紹介しましたね。
「人間は反省して、行動を変えることができるのです。親のアタリマエは子どものアタリマエじゃない。自分のアタリマエは他の人のアタリマエじゃない。だから、そういう概念は廃止した方がいい」
「実はTEDxFukuokaの準備をしているときに、自分の子どものことを理解しようとしていなかったことに気がつきました。それで私は深く反省をして、子どもの大切にしていること、世界感を理解しようと思いました。中学2年生の長女は今が反抗期。音楽が得意で、ガーリーなファッションが大好きなんです。私とはまったく違っていて、勉強にはあまり関心がない。彼女にはフリーターやニートになるのではなくて、自分の人生のゴールを持って欲しい。彼女の世界観をよく理解したいと思います」
日本人として子ども3人を育てる
―仕事に家事、子育てもあって忙しいでしょうか?
「たくさんやることがあるから、そのバランスをとるのはとても難しい。マキコさんと家族がいつも助けてくれているから、私は仕事をすることができる。夫はカメラマンですが、私のことを応援してくれて、よく家事をしてくれます。私の写真はほとんど夫が撮ったものです。食事のときに子どもたちの箸の持ち方が違うと注意をすると、夫は『食べられればいいじゃないか』と言います。私は”日本人として”育てているので、『大人になったときに恥ずかしいから、直しなさい』と意見が合わなくて、まるで国際結婚をしているみたい」
―お子さんは”日本人として”育てているのですか?
「そう。それで子どもは”ガイジン”のコミュニティでは育てたくなくて、日本人のコミュニティで育てています。娘3人を北九州で出産して、公立の学校に通わせています」
日本語SNSで若者に発信したい
―ブログで情報発信をしていますね。
「ブログはもともと英語で書いていたのですが、日本語で読んでみたいと言われて、自分の日本語の勉強にもなると思って3年前に始めました。マキコさんにも手伝ってもらっています。ブログを始めたら読んでくれる人が増えて、新聞やテレビ、ラジオの仕事も増えてきました」
「ブログでは日本について好きじゃないところも遠慮なく、発信することが大切だと思っています。日本のことが大好きだから、99%は日本のよいところを書いて、1%は良くないところも書いている。コロナウイルスのことも、日本がいろいろとミスをしていて間違っているところがあると思うから、動画で発言していこうと思っています。最近、YouTubeやInstagram、Twitterも始めたので、これから特に、若者に向けて情報発信をしていきたいと思っています」
情報発信で偏見や差別をなくしたい
アンさんはありきたりな英語の授業ではなく、学生たちに多様な視点に気づかせる活動をしています。大学での授業に加え、北九州や九州各地での講演会、ブログ、SNS、書籍などでの発信を通じて、私たちの世界の見方を変えようとしています。こうした情報発信は、宗教や文化が違う人々に対する偏見や差別をなくしたいという想いからしている活動だといいます。
2018年、アンさんは「TED x Fukuoka」というイベントに登壇しました。今年も「TED x Fukuoka」での登壇を予定しているそうです。2回目のスピーチではどんな話が飛び出すのか、今から楽しみです。
アン・クレシーニ(Anne Larson Crescini)さん
メアリー・ワシントン大学(バージニア州)で宗教哲学を専攻し、1996年に神学校(ボストン)に進学。在学中に教会の集まりで出会った男性(リズ)と婚約。1997年、婚約者が文部科学省のプログラム(外国語青年招致事業)に参加することになり、いっしょに神戸に転居。翌年、24歳で結婚。2000年、日本に馴染めぬまま帰国。2002年、オールド・ドミニオン大学大学院で応用言語学修士を取得。2003年、北九州に転居し、北九州市立大学で英語を教える。2014年、永住権取得。北九州市に10年、宗像市に5年、それぞれ在住。
(北九州ノコト編集部)