「雨水で地域を変える」/木村洋子(アトリエPAO代表、一級建築士)
雨水の力を実感 世界が変わった
―今は雨水の利用が一番の関心事ということですが、きっかけは。
「2009年10月から半年間、台北で開催された『世界国際花博』に友人と参加して、『五感の庭』をテーマに庭を造り、3位に入賞しました。花博が始まるまでに、土壌改良に3ケ月をかけました。水を貯めて循環する仕組みを作りましたが、水が土壌に浸透すると土壌がどんどん改良されていきます。そこにトンボなどの生物が集まって、水が命を作るすごさを実感しました。ここで『雨水を生かしていかなくてはいけない』という発想が生まれました。世界を見る目が変わったのです」
―雨水を生かしたプロジェクトは何かありますか?
「2012年に『らくらく庵』(小倉南区)という小規模な老人福祉施設で、35トンの雨水を貯水して利用する先進的なシステムを作りました。北九州市が国の支援を受けて推進した『小規模多機能の老人福祉施設(10床)』のプロジェクトです」
―貯水した雨水は何に使用するのでしょうか。
「雨水をトイレや雑洗い用に利用しています。屋根から落ちた雨水からきれいな水を集めて、いくつかの水槽に送り、少しずつ浄水してきれいにした水を施設の中に入れて使うシステムです。公共的な設備ではこうした方法があります」
―そうなんですね。雨水利用は全国で増えてきていますか?
「雨水の利用を促進する法律『雨水の利用の促進に関する法律』(2014年)ができて、東京や福岡市、その他の都市でも雨水を利用する設備が作られていますが、まだ全国的な動きにはなっていません」
「グリーンインフラ」を増やしたい
―調べてみると、雨水タンクを設置する助成金の制度が全国の自治体にあるようですが、北九州市にはまだないようですね。
「上水と下水の管轄が違うのが難しいところです。水資源意識を高めていかなくてはいけないと思います」
―具体的には。
「『グリーンインフラ』とは自然の機能や仕組みを利用したインフラのことなのですが、グリーン化して水を循環させる仕組みを作り、雨水を利用できれば、気温が2~3度は下がると言われています。北九州にはその反対の概念の『グレーインフラ』といって、コンクリートやアスファルトでできた人口造形物が多いのです」
「若松の工業地帯は工場や駐車場をグリーン化して雨水を利用すると、トイレなどの雑用水を使う場所がたくさんありますし、上水が少なくて済めば経済効率も高まり、グリーン化で土地の安全性も高まります。雨水を吸収して保水性がある『トース土工法』という舗装は、東京マラソンのコースにも使われています。初期費用がかかりますが、長期間使えば経済メリットがあります」
―一般住宅に貯水タンクを設置することも可能でしょうか。
「一般の住宅では駐車場の下などに貯水タンクを置いて、家の水として使っていく方法があります。2011年には、福岡大学の渡辺亮一先生の個人宅ですが、実験データを取るための『雨水ハウス』に貯水タンクと空タンクを設置しました」
「最近は都市が浸水する水害が増えています。日本は土地が狭いので、雨水を大きな公共施設で貯水して利用するだけでなくて、一般の家庭でも貯水と空の容器に雨水を貯めて使うシステムが必要です」
―私たちも雨水の利用を考えないといけませんね。
「そうです。水資源を利用することが当たり前になるように、市民の意識を高めていきたいのです。災害時にも生活に使える水があるだけで、メンタルにもよい影響があります。汚れたテーブルを拭ける水があると大きく違うものです」
「街づくりを生業にしてきましたが、雨水に関してはNPOの理事としてもっと気合いを入れて本腰をいれてやらないといけないと思っています」
地元に循環システムを
木村さんが中学生のころ、汚濁した洞海湾に魚が浮かび、汚れた空に煙突からの七色の煙が出ていたのだそうです。ご家族が若いころの写真で、洞海湾の海水が足の見えるくらいきれいだったのを知って驚いたこともあったそうです。
汚れた空気を吸って育っていたので、洞海湾が目に見えて浄化されていったことは非常に大きな出来事だったといいます。その時の水に対する気持ちが、今の雨水の循環システムの仕事につながっているように思えました。
努力家で、勉強好きな木村さんのことですから、今日もどこかで水資源の勉強をしていることでしょう。そんな木村さんを応援していきたくなりました。
■木村洋子さんプロフィール
北九州市出身、北九州市在住。建築事務所アトリエPAO代表(一級建築士/ランドスケープデザイナー/園芸福祉士)。「街づくり」に25年携わる。国による雨水活用促進を支援する特定非営利活動法人「雨水まちづくりサポート」理事。関心事は「雨水の貯水・利用」による治水・災害対策。
(北九州ノコト編集部)
※3月18日に取材しました。