家族との笑顔溢れる日常を思い出に/上原藍さん(相談支援専門員)
北九州を中心に活動している「muikku(ムイック)」というボランティア団体があります。フィンランド語で「ハイチーズ」の掛け声の意味を持つ「muikku」と日本語の「無垢」という言葉を掛けた名前を掲げ、2020年8月に発足しました。
障害をもつ子どもたちやその家族の「ありのままの姿」を「日常」を写真に残すお手伝いがしたい…。そんな彼女たちの取り組みについて、今回は代表の上原さんから詳しくお話を聞くことができました。
始まりは「私にできることがあるのなら…」という想い
ーどういったきっかけ、想いでこの活動を始めようと思いましたか?
娘がろう学校に通っていた頃、運動会で娘の写真を撮るついでにお友達の写真も撮って親御さんにプレゼントしていたんです。私自身、学生時代に写真の勉強をしていたので、この経験が少しでも役に立つのならと、軽い気持ちでやったことだったんですけど、思いがけず皆さんとても喜んでくれて。
そしてその時に一人のお母さんが、よかったら七五三の写真も撮ってもらえないかとご依頼してくださったんです。そのことがきっかけで、「こういう需要ってあるんだな。だったら私にもっとできることはないかな。」と思うようになりました。
ーメンバーの方々はどのようにして集まったのでしょうか?
皆さんムイックの活動を始める前から、元々同僚だったりママ友だったり知り合いではあったので、それぞれ私から声をかけさせてもらいました。そもそものきっかけをくださった七五三写真のお母さんも、今ではメンバーの一人です。
ーメンバーをこれから増やす予定はありますか?
今まで何度か新聞やテレビなどで取り上げていただいたおかげで、撮影のご依頼の他にも、お手伝いしたいというご連絡も多々ありました。どんな内容であれ、たくさんの反響があるのは本当にありがたいことです。
でも今のところはこの4人というコンパクトさがちょうどいいと思っていて、メンバーを増やす予定はありません。
ただ、その時その時で臨時という形でお手伝いしてくださる方は何人かいて、それはそれでものすごく助かっています。そしてそんな有志の方々には、これからも随所で支えていただけたらなと思っています。
ふとした日常の中にこそ愛が溢れている
ー障害や病気を抱えている子どもたちを撮影する上で、気をつけていることはありますか?
撮影日当日にはじめてお会いしてからの撮影になることが多いので、事前打ち合わせには一番力を入れています。特に親御さんとのお話し合いはすごく大事にしていて、お子さんの性格に始まり、障害だったり病気だったりのことを詳しくお聞きして、それに合わせて私たちも調べたり勉強したりして知識を入れてから、撮影に臨みます。
例えば落ち着いて立っていられないとか、突然大声を上げてしまうとか、物音に敏感だとか、フラッシュが苦手とか、お子さんによってその特性は本当にさまざまで、撮影するスタジオや場所の環境にもかなり気を使っています。さらに今はコロナ禍なので、感染症対策にも十二分に気をつけて行動しています。
その他にも、医療的なケアが必要なお子さんに対しては、敢えてそこにカメラを向けたりもします。医療器具や装具にだって家族の思い出は詰まっていると思うし、何年後かに写真を見て振り返ったときに「昔はこんなの使ってたなぁ。」と懐かしむことも、そこから成長を感じることもできると思うんです。
ー実際に利用された方からの直接の声で、嬉しかった言葉はありますか?
「やっぱりうちの子には無理なんじゃないかと直前に撮影をキャンセルしようかと迷ったけど、ムイックさんに撮ってもらってよかったです!」と言われたときは、本当に嬉しかったです。念には念を入れた事前打ち合わせが実になったときほど、「これこそがムイックの目指しているところなんだ!!」とメンバーみんなで熱くなっています。
私たちはお子さんにスポットを当てるだけではなく、しっかりとポーズをとってほしいわけでもないんです。あくまでも日常と、そこにある自然な笑顔を切り取りたいんです。なので「ムイックさんだからこんな顔してくれたんです!」と言われたときなんかも、この活動をしてきてよかったなと心底思いました。
ウィズコロナ時代でボランティア活動を継続させるために
ー今現在、困っていることなどがあれば教えてください
サポーターの皆様のおかげで私たちは活動できているのですが、金銭的な不安は正直なところあります。今は助成金もいただいているので成り立っていますが、助成金の期限が終わるときのことを考えると、今のうちから安定させておきたいところです。
寄附をしてくださった方には会報誌や返礼品としてオリジナルエコバッグをお渡ししているのですが、これからもっと工夫していく予定です。
ーでは最後に、これからの夢、目標を教えてください
設立時からの目標が2つあったんですけど、1つ目は写真展をすることで、ありがたいことにこれは8月に開催することが決まりました。リバーウォーク北九州の市民ギャラリーをお借りできたので、たくさんの人に足を止めてもらって、少しでも多くの写真を見ていただけたら嬉しいです。
そして2つ目は病棟に入院している子どもたちを撮影することです。娘が入院していたときに同室の子が亡くなって、私にもっとできることはなかったんだろうかと心残りがありました。入院中の我が子に付き添う親たちは、先が見えない不安や自身への葛藤を繰り返しています。それでも子どもたちは障害や病気と向き合いながら懸命に生きています。そんな日々の中にも確実にある小さな幸せや喜び、その想いを写真という形にできたら、子どもたちやそのご家族の力になれるのではないかと。ほんの少しでも私にそういったお手伝いができたらいいなと思ったんです。
残念ながらこれに関しては今のコロナ禍ではとても難しい状況なのですが、近い未来に必ず実現したいですね。
写真から伝わる愛情と繋がる人々
上原さんはこの取材中、「本当に私は周りの方に恵まれているんです」と何度も何度も言っていました。「私は別にすごくないんです。写真を撮っているだけなんで。」と笑っていたり、メンバーの皆さんの魅力をここには書ききれないほどたくさん教えてくれたり。もちろん「ムイック」の活動は、メンバーの方それぞれの惜しみない努力と、周りの方たちからのサポートがあってこそだと思います。でも先頭に立っているのが上原さんだからこそ、支えてくれる人の輪はどんどん広がっていくのではないでしょうか。
何かをしたいと思うのは簡単で、でもそこから行動に移すのが難しくて、踏みとどまっている人は世の中にはたくさんいるはず。そんな時に先導してくれる人がいるのはありがたいことで、きっとそれは誰にでもできることではないと思うのです。
8月の写真展は筆者もすごく楽しみにしていて、夏休み中の子どもたちを連れて見に行く予定です。ぜひまたその時に、少し先を行く上原さんから何か新しいお話が聞けたらなと思います。そしてムイックの活動が続く限り、私も陰ながら応援させてください。
イベントや活動内容についての詳細は「muikku」インスタグラムから確認できます。
※2022年3月30日現在の情報です
(ライター・Kanae N.)