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祝・本屋大賞「52ヘルツのクジラたち」/作家・町田そのこさん

(アイキャッチ画像:写真中央がゲストの町田そのこさん)

西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。

驚きとプレッシャーの大賞受賞

甲木:おはようございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。

横山:西日本新聞社の横山智徳です。

甲木:横山さん、2021年の本屋大賞ですが…。

横山:僕、発表会の様子をユーチューブライブで見てたんですよ。

甲木:仕事をサボってね。

横山:いや、ちょうど仕事中の車の中で。平日の午後2時ぐらいだったんですけど。

甲木:私たち、皆ドキドキして発表会を見てたんですよね。私たちの関係者が受賞するかもしれなかったから。

横山:そう。そして「見事!」という結果で。嬉しかったですね。

甲木:嬉しかったですね。ということで、さっそく本日のゲストをお呼びしましょう。京都(みやこ)郡在住の作家・町田そのこさんです。よろしくお願いします。

町田:よろしくお願いします。

横山:よろしくお願いします。

甲木:確か、前回、このラジオに出ていただいたときは、地元が舞台となった作品「コンビニ兄弟」(新潮文庫nex)の話で盛り上がって、また「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)の話もしたのですが、その時はまだ、本屋大賞ノミネートとか全然そんな時期じゃなかったですよね?

町田:全然、そんな時期ではなかったです。

甲木:それが、あの「52ヘルツのクジラたち」が本屋大賞に選ばれ、びっくりしました。

横山:本当にびっくりしました。

甲木:ご自身としては「あっ、選ばれるかも」みたいな予感などあったんですか?

町田:全くなかったですね。ノミネートされた時点で、「もう一生分の運を使い果たした」と思ったぐらいでしたから。ノミネートされた他の作品も皆素晴らしいし、大御所と言われる作家さんもいらっしゃったし、そんな方々と「肩を並べるだけでも光栄だなあ」って思っていたので、自分の中では、ノミネートされただけですごく満足していました。

甲木:そうなんですね。それが、ノミネートどころか、大賞をお取りになって…。

町田:そうですね。大賞は、実際いただけるとは思っていなかったので。もちろん、いただいたと聞いた時は嬉しかったんですけど。受賞の電話をもらって30分後から、プレッシャーで胃薬を飲んでいました。「肩を並べるだけでも有難いと思える方々を差し置いて、私が受賞ってどうして?」というプレッシャーがすごくて。受賞の連絡をいただいて5月後半までは毎日胃薬を飲んでいました。

甲木:そうなんですか。

横山:授賞式でも、そう言われていましたよね。

町田:授賞式の時点で、もう胃薬を2箱くらい飲み干していたんです。だいぶ飲みましたね。

受賞による変化と、新しい仕事

甲木:受賞されたことで、周囲の変化はありましたか?ご近所の方とか、本屋さんでの町田さんの本の扱われ方とか。

町田:やはり自分の本が平積みされている、たくさんの書店で扱ってもらっている、そんなシーンを多く目にするようになったことが一番の変化ですね。クエストさんに行くたびに、「私の本が一番いいところに置かれてる」って思っちゃいますね。

甲木:もう、コーナーがありますよね。

町田:そうなんです。すごく嬉しいです。

横山:クエストだけではないです。福岡のどこの本屋に行っても、町田さんの本がドンとたくさん置いてあります。

甲木:郷土の誇りですね。

町田:ありがたいなと思って、いつもこっそり眺めています。

甲木:本屋大賞という大きな賞を受賞されたことで、急にお仕事が増えたりしてるのではないでしょうか?

町田:そうですね。一時期に比べたら、ありがたいくらいお仕事が増えています。西日本新聞さんにもエッセイを書かせていただいていますし。

甲木・横山:ありがとうございます!お世話になっています。

町田:「書きたいです」って言ったら、本当に書かせてくれるんだと思いました。

横山:「書きたいです」と言っていただいたんですね?

町田:「エッセイとかを書いてみたいですね」と言ったら、西日本新聞社の記者さんが「じゃあウチでどうですか?」と言ってくださって。やっぱり言ってみるものだなと思いました。「テーマも絞ったものではなくて、広い範囲がいいな」と言ったら、「では、北九州でどうですか?」と言われて。「それならお酒の話も出来るし、自分の思い出の地も書けるし、いいと思います」と言ってさせていただいています。ありがたいです。

甲木:こちらこそです。毎月楽しみで。旦過市場とか平尾台とか、知っているところばかり出てくるから、すごく嬉しいです。

町田:私も楽しいです。

甲木:末永く続けてください。

「星を掬う」で書きたかったこと

甲木:早速、受賞後の第一作として、「星を掬う」(中央公論新社)という長編を上梓されましたね。以前、ラジオでもお聞きした母と娘のお話しを書かれたんですよね。

町田:はい。

甲木:涙で文字が読めなくなるくらい、思い出しただけでも涙が出るくらい、ぐっときました。

町田:ありがとうございます。母と娘をテーマに書こうと思って。自分なりに、新しい母親像が書けたのではと思っています。今までなかった母の姿、母の生き様とかを描けたような気がしています。「52ヘルツのクジラたち」の時は、虐待された子供の視点から書いているんですね。虐待された子供が親を慕うとか、その虐待からどう自分が立ち上がって行くかっていう物語でしたが、今回の「星を掬う」は、世間から許されないことをしたんじゃないかって糾弾される側の親の視点を書きたかったんです。どうしても、そうせざるを得なかった事情や、本人にしか分からないやるせない感情。そういう親側の意見というか、気持ちを書きたいなあっていうところから始まったのが、この「星を掬う」なんです。その親の事情を子供がどう受け入れるか、どう認めるか。そこまでの過程を描きたいと思いました。

甲木:そうですね。二人の母親が出てきますが、二人とも、それぞれに娘との関係に事情があってというものでしたね。

町田:そうです。もちろん、この世界中、いろんな母親がいて、全く同じ母親はいなくて。娘もそうなんですよね。だから、関係ってたくさんあるんですけど、私はその中でも、親を捨てた子供と親に捨てられた子供、そして親を知らない子供、この組み合わせで、物語を組み立てていきたいなあって思いました。そこで、その組み合わせの中での親子関係とか、悩みとか苦しみを描きたいと思って書きました。血のつながりだけを家族と呼ぶのではなく、毎日を支え合う人のつながりも家族と呼べるのではないか?今、そういうことを考えています。多様性という言葉が、これだけ謳われている世の中なので、家族のカタチもこれからどんどん変わっていくんだろうなと思います。

甲木:そうですね。まだお読みになってない方は、ぜひ本屋さんに走ってください。

町田:よろしくお願いします。

甲木:横山さん、いかがでした?町田さんとの再会。

横山:嬉しかったですね。ありがとうございます。僕も本を読みましたけど、男性なので、誰か一人に感情移入することは確かに無かったんですけど。主人公の女性は、場面、場面で誰かのせいにしてしまう事から抜け出そうとしましたよね。現実は厳しいんだなと思いながら、1ページ1ページ進んでいきました。

甲木:町田さん、ありがとうございました。

町田:ありがとうございました。

〇ゲスト:町田そのこさん(作家)

〇出演:甲木正子、横山智徳(西日本新聞社北九州本社)

(西日本新聞北九州本社)

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