「Café causa」を経営しながら起業家の支援も/インキュベーションマネージャー・遠矢弘毅さん
西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。
教えるというより、気づかせる仕事
甲木:あけましておめでとうございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。
梁:あけましておめでとうございます。西日本新聞社の梁京燮です。
甲木:新年、明けましたね。この番組も1年2カ月続きましたね。
梁:1年越えですよ。今年もいろんな人に会えるのが楽しみですね。
甲木:今日は新春を飾るのに相応しい素敵なゲストです。小倉駅北口でCafé causaを経営しつつ、インキュベーションマネージャーとしても活躍なさっている、遠矢弘毅さんです。よろしくお願いします。
遠矢:よろしくお願いします。
甲木:私は遠矢さんのことを、リノベーションもするカフェの経営者と思ってたんですけど、「インキュベーションマネージャー」という肩書があったんですね、知りませんでした。
遠矢:(笑)こう見えて人の支援をすることが好きなんです。
梁:インキュベーションマネージャーって、簡単に言うと何ですか?
遠矢:よくコンサルと混同されがちなんですけど、起業したばかりの人の、技術的な支援をするというよりも、精神的なバックアップをする、それをインキュベーションマネージャーと呼んでおります。
甲木:人生相談のような感じですか?
遠矢:そう!近い。会社も人生みたいなもので、どう成長させていくかについて悩んでいるわけです。そこで、相談者が何に悩んでいるのかについて、自分で考えさせるように質問をしっかりしていく感じです。教えるというよりも気づかせていきます。ほとんどの事に答えがないので、どの方向がいいかについて自分で決めてもらいます。
甲木・梁:そうなんですね。
遠矢:それで相談者から、「どうするかは自分で言ったし、やるしかないっすよね~」というような言葉が出てきたら、「まあ、そうなんやろうね」とか言って…。
甲木:(笑)そういう仕事なんですね!へえ~!
遠矢:だから成果が見えにくいといえば見えにくいです。でも気づいたら皆が笑顔で楽しく働いているという状態になっていく。
甲木:それで、起業した方が後で振り返って「あのとき遠矢さんに気づかせてもらったから今がある」と思ったら成功、みたいな?
遠矢:そうですね。それすら忘れてしまうぐらいが、僕らの存在がなくなるぐらいというのが、成功です。だから本当に黒子なんです。寂しくもありますが、その感じを自分自身で認めてからは、感謝されないことへの不満みたいなのがなくなりました。
甲木:昔は感謝されないことへの不満があったんですね?
遠矢:昔は「なんだよ、俺が言ったからこうなった(うまくいった)んじゃないか?」みたいなことを思ったりしていました。
梁:「ちゃんとお前、お礼しに来いよ」みたいな感じですか?
遠矢:まるで自分で考えたかのように「こうやって、出来ました」という人が意外と多いので。
甲木:会社でもそういう人います、います!まるで自分ひとりで大きくなったような顔をしている後輩がいますけど(笑)
遠矢:そう。でもそれが上司というか、上役の人がうまくコントロールできているという賞賛になるわけです。
甲木:なるほど。ちょっといい勉強になりました。これからそう思うようにします。
遠矢:よろしくお願いします。
起業家同士が繋がる場をつくりたかった
甲木:そんな遠矢さんがインキュベーションマネージャーをやっているから、Café causaには面白い人が集まるのですね?
遠矢:そうですね。そもそもcausaのコンセプト自体が、面白い人が集まることで、新しい価値を次々に生み出していくっていうものなんです。だから開業する前にやっていた行政でのインキュベーションマネージャーの仕事がベースになっています。開業前の行政の仕事では、初めて事業を起こす人などが入居するような施設に「入りたい」という人たちの審査をする係でした。入居を決める審査会のためのビジネスプランのブラッシュアップもしていましたので、「何かやりたい!」っていう膨大な数の人たちのネットワークを持っていました。だから自分でやったcausaも、そういう人たちがまずベースにあり、その周りにいる自分も何かやりたいなあっていう人たちが集まってくれる、そんな仕組みなんです。
甲木:なるほど。だからお客さんであるそんな人たち同士が友達になったり結びついたりするんですね。
遠矢:そうなんです。オープンした2010年当時はSNSもあまり発達しておりらず、起業家同士の繋がりもあまりなかったので、「繋がれる場をほしい」という声を聞いていました。だからそんな場を作ってしまえば一旦は人は集まるなと思ったんです。
甲木:飲食を提供したくてカフェをやったというよりは、人を繋げたくてカフェをやったんですね?
遠矢:はい。何かをやりたいような人が集まるような仕組みを作りたかったんです。ただ、みんなお金持っていないので、何かの事業とミックスするしかなく、たまたま飲食はやったことがあったので、カフェという形態にしたというところですね。
梁:なるほど
バーテンダー時代に「がっつり読書」
甲木:そもそも遠矢さんは鹿児島のご出身で、北九州と縁がない方だったんですよね?
遠矢:大学でこちらに来ました。38年前とか、ほぼ40年前でしょうか?共通一次という試験があって…。
甲木:共通一次!懐かしい。その響き。
遠矢:その試験であまり納得のいく成果が上がらず、二次試験でこの町に来ました。その時に、アテンドしてくれた先輩と銀天街を歩きながら、「北九州の一番の繁華街に連れてってくださいよ」と言うと「今通ったところよ」と言われて、「あらー!」って。意外でした。鹿児島の方がどうかすると賑わっているのではないかと、当時は思いましたけどね。そんなことがあって、北九州大学に入学することになって、この町に来たという感じです。
甲木:で以来ずっと北九州なんですね。
遠矢:ずっとですね。転勤で福岡市にいたこともありますけど、おおむね北九州ですね。
甲木:大学時代は、人と話すことが苦手だったとか?
梁:うそでしょ!?
甲木:信じられないでしょ?
遠矢:鹿児島にいた時代に、中学・高校の計6年間で多分女子と話したことが一桁のはずなんです。ずっと共学で、ですよ。
甲木:えーっ!だってこの容姿ですよ。遠矢さんって本当に素敵な方で絶対モテそうなのに、すごいチャンスを逃してますよね?
遠矢:きっと。今思えば。コンプレックスだったんですよ。あまり人と喋らないというか、喋らないのが男だというくらいの感覚がちょっとあったのだと思います。
甲木・梁:あー。なるほど。
遠矢:そので喋れるようになりたいなと思って、落語研究会に入ってみたり、バーテンダーとしてのアルバイトを始めてみたり。
梁:接客とか喋りの勉強をし始めたという感じですね?
遠矢:そうなんです。まあその、バーで働き出したのは、本当は失恋をしましてね。起きているとそのことばかり考えるので、もう夕方から朝までのバーで働けば考えないで済むっていうのが、本当は一番の理由です。
甲木・梁:切ない話ですね~。
甲木:そんな理由だったんですね?なんか音楽とか映画とかの会話ができるから、いろんな知識を得たいとか、そんな理由とおっしゃってませんでしたっけ?
遠矢:そうなんですよ。それは結果として、そういうことになった。あとから振り返ってみたらあっ、あそこで仕事をしたおかげで、音楽もいろんなジャンルを聞くようになったし、お客様と話さないといけないから社会一般常識みたいなことも学ぶようになりました。まあ、当然カルチャーよりの映画だったり本だったり、ここら辺読まなきゃ見なきゃ。ということになったので、一生懸命本とか読み始めるんですよ。もともと本は好きでしたけど、ある時バイト先の先輩、中卒のバンドマンの先輩と会話してたら、「おまえ、大学生なのにラスコーリニコフも知らんのか」って言われて。
甲木:うわっ!へえー!
遠矢:「何ですか?それ」とか言ったら、「いや、ドストエフスキーの罪と罰とか読まないのか?」みたいに言われて「読んだことないです」って言ってそれからです。「新潮文庫の百冊」を読破する勢いで、がっつり本を読み出しました。ただ、太宰治とか三島由紀夫とか、そっちの方向にどんどんハマっていくという。ドストエフスキーとかもそうですけど、なんか俺の人生大丈夫か?みたいな方向に行きだしましたけど。
甲木:でもいい出会いでしたね。そのバンドマンとは。
遠矢:そうです。その先輩がいたからこそ、本はめちゃくちゃ読むようになったし。で、お客様方は本当にいろんな知識をお持ちだったんで。気づいたら雑談するときのネタがいっぱい自分の中に溜まっていっていたという感じでしたね。
某会社に就職し、馬車馬のように働く
甲木:就職されたのがバブル末期?
遠矢:はい。1990年になるのかな?ちょうど1986年から株価が上がり始めてっていうところが、私が北九州にきたところなので。学生時代の間は自分で食費を払うこともなく、ほぼほぼ先輩たちに奢ってもらうという人生を送りながら、就職、ということになるのですが、本当は自分で飲食店やろうと当時は思っていました。でも、尊敬する若手の経営者の方から「遠矢、おまえさ、自分でなんかやりたいっていうのはわかるけど、サラリーマンを馬鹿にしてるんじゃねーか?」みたいなことを言われて。「やったこともないのに何言ってるんだよ」って言われた時に、確かにそうだなと思って。8月もすぎてましたけど、そこから就活ですよ。
甲木:遅いですね!でも、バブル期だから就職先はあった?
遠矢:あったというか、先輩たちにいろいろ聞くと、「某会社は馬車馬みたいに働かされて最悪だぜ」って言われたので。これがいいと思って説明会に行ったんです。そしたらなんか50~60人ほど人が集まっていて、その時、専務が我々の前に立って「えー、この中から。一人採るか二人採るか?一人も採らないかもしれません」て宣言されたんですよ。これは入りたいと思いますよね。
甲木:ええ。50~60人の中ですしね。
遠矢:その中から入りたいと思い、頑張って入りました。ちょっと自慢話っぽいですが。
甲木:いえいえ。でも向こうの策略に乗ってますね。
遠矢:乗っちゃいましたね。
梁:闘争心が刺激されましたね。
遠矢:役員面接まで行った時も「あなたが人に負けないことは何ですか?」みたいなことを言われた時に「狙った人は外しません」みたいなことを言っちゃって入社を許されたんですけど。役員会議でもめたらしいです。後で聞くと。「やりすぎだ」と。
甲木:賭けだったんでしょうね。某社としても。
遠矢:そう。良かったのか悪かったのか。
甲木:で、馬車馬のように働いたんですね?
遠矢:働きました。本当に働かされるんだと思いましたね。
梁:馬車馬ですか?本当に。
遠矢:馬車馬でした。求人広告を取ってくる仕事なんですけど、1ページ30万円くらいのものをどれだけ売ってくるかで、目安としては2週間で100万円くらい売る感じでした。2週間ごと、月ごと、3ヵ月ごと、年間それぞれに目標があり、日々どれだけアポイントを取れるかということで毎日電話をかけまくります。1日平均200本くらいかけて3つくらいアポイントがとれて、それを刈り取っていくという作業でした。
甲木:うわー。でも相手に会えても空振り、ということはあるんでしょう?
遠矢:もちろんそうです。ただし、アポが取れると売れる確率はかなり高いですね。「決済者アポ」と言って、社長以外のアポをとると怒られる会社だったんです。
甲木・梁:ほお!
遠矢:例えば「人事部長のアポイント取りました」と報告すると「馬鹿。お前、こんな会社で人事部長が決済できるわけないやろう。社長に会え社長に」って言われるのが我々の会社でした。
甲木:では社長にアポが取れた時点で、結構これはいいな、となるのですね?
遠矢:そうです。社長が時間取ってくれるって言うと、そこからは割とスムーズに進んではいましたけどね。
甲木:でも大学出たての若造に社長が会ってくれて、しかも広告を出してくれるって、大変なことではないですか?
遠矢:大変でしたよ。後々気づくんですけど、商品としての広告を売りに行くと、やっぱり売れない。だから、クライアントになる社長さんが「もしも今こんな人を採用したら、自分の会社はこういう風になっていくなあ」っていうのをイメージさせつつ、「今、目の前にいるこの遠矢にお願いしたら、それがそんな人が採用できるかもしれない」という妄想を抱かせるわけです。そのトークが出来るかどうかが重要で、その時に学生時代のいろんな経験っていうのが生きてきます。
甲木:バーテンダーなどの経験が、ですか?
遠矢:そうなんです。そのときに社長さんたちといろいろとやった会話、これが活きてくるんです。昨日のスポーツの話題ぐらいから始まって、本の話をしたり、映画の話をしたりしたところで、なんかどこどこの会社がこうでしたねみたいな。そんな話をして行く中で、何となく「こいつは若いけど、相談してみようかな~」っていう雰囲気を作っていくのです。
甲木:なるほど。でもそれ、今の営業にも通じるものがありますよね。
遠矢:そう思いますよ。我々の頃は「雑談→相談→商談って進むんだよ」と言われて、最初の雑談のレベルをどう上げていけるかが大事でした。雑談の時点で「つまんねぇ」と思われたら相談に進まないわけです。
梁:そうですよね~。
遠矢:相談までくると、あとはもう、「どんな商品があったんだっけ?」みたいになってくるわけです。そこで「社長のところには、コレですかね~?」「印鑑、こちらです」みたいな。
繰り返した転職で広げた人脈
甲木:でも、その某社も辞めちゃうんですよね。結構うまくいっている感じだったのに。
遠矢:小さいころから社長になりたかったんです。何の社長っていうわけじゃなくて、社長というポジションになりたくて。いつか自分でトップに立ちたくて、30歳くらいまでにはやりたいと思っていたんです。でもなかなかそうもいかないなあという現実を突きつけられまして。当時の某社から「あー違うところに行こう」と思い始め、資格取れば一応社長っぽいことができるのではないかと思い、自分のクライアントだった税理士事務所の門を叩き、そこに入ったんです。
甲木・梁:なるほど。
遠矢:腹黒い、近くに寄って立とうとしたっていうやつですね。で、見事に大忙しの事務所で勉強する時間が取れず、2年ほどで結局そこもやめました、という人生でございます。
甲木:なかなかインキュベーションマネージャーに行きつかないですね。
遠矢:ここからが長いんです。ここまでは割と人に話せる内容です。ここから以降はあっちに行きこっち行き、みたいな人生になって。そんな中で結婚もしましたし、子供もできたし。はい、何だろう?まあ暗黒のというわけでもないけど、かなり辛い時期ではありました。稼げてはいましたが、「何か違うよな」と思うことが多くて。いろんなところに所属はするものの、自分はこういう考えだから、この組織は抜けますっていうことで辞めていくので。嫌われてはなかったんです。辞めてからも飲み会誘ってもらったりみたいな関係を次に、次にという感じで繰り返していました。
甲木:「僕がやりたいのはこう言う事じゃないんだけどなあ」っていう感じで、転職を繰り返したんですね?
遠矢:会社に所属すると「この会社はこうあるべき」みたいな事を勝手に考えちゃうタイプなんですよね。
甲木:社長になりたいくらいですからね。
遠矢:はい。それで「こうあるべき」をちゃんと伝えます。伝えて、「まあ君の言う事も分かるけど、今はこうしてくれ」と言われることが多いので、だったら、「僕としては思いっきりやれないから、次を考えさせてもらってもいいですかね?」ということで辞めていくから、「じゃあ、頑張りなよ」と言って送り出してもらうような感じです。
甲木・梁:なるほど。
遠矢:それが今に繋がってきます。割と私、知り合いだけは多いと思ってるんですけども。
甲木:本当に、多いですよ。
遠矢:このときの経験が実は生きてるんですね。変な辞め方をしていない。どんどんちゃんと付き合いが続く関係で辞めていったというところですね。無理やりネットワークづくりを頑張るのではなくて、自然にそうなりましたって感じです。
否定から入る口癖に気づく
甲木:なるほど。でもやっぱりご家族を養わなきゃいけないし、大変ですよね。で、「いつになったら僕のやりたいところにたどり着くんだろう」って焦りはなかったですか?
遠矢:めちゃくちゃありました。そうしている中ですね。第一子ができるわけです。そうするとまあ、一旦社会保険欲しいと思って。うん、あるレストランバーの声をかけてもらったので、そこでマネージャーをしてみないかと言われて。その時の面接でそこの社長が「遠矢君はいろいろ考えているだろうけど、遠回りのようにみえて、結構近道かもよ、うちに入ると」って言われたんですよ。よくわかんなかったけど、とても残ったんですよね。意味が分からず。だから入ってみた。入ってみたらですね。結果としてはわかるようになるんだけど、そこの社長と毎晩のようにミーティングをするわけですよ。朝から晩まで働いて、片付け終わった夜中に社長とミーティング。そこで言われるのが「遠矢君ってさあ、人の話、聞いてないよね」って。「いや社長、今こう面と向かって、言われたことに対して答えてるじゃないですか」っていうわけですよ。そうすると「だから聞いてないんだよ」みたいに言われて。
甲木:禅問答みたいですね。
遠矢:もうわけ分かんなくて。本当に毎晩そうなんですよ。毎晩そんなのが続いていって、結局耐えられず辞めてしまうわけです。
梁:辞めたんですね。
遠矢:辞めました。そこを辞める時はあんまりいい感じじゃなかったですね。「やっぱもう無理です」ぐらいのやめ方をしたと思います。でも言われたことの意味わからない。「君は人の話を聞いてない」って意味が全く分からない。
甲木:「近道」というのもわからないですね。
遠矢:はい。そしたらその後もまあ違う仕事をして行くわけなんですけど。ある福岡市に移転したマンション系のサービスをしているベンチャーに入ったんですけど、そこではとても良いことが僕にとっては起こりました。何かというと、僕、チームの中に居るとリスクを人よりも先に察知して、その対策を立てていくっていうのが役割ではないかと思っていたんです。ある程度こういろんな知識や経験もあったから、そうだろうなと思っていたので、ミーティングとかがあってもなんか意見があると「いや、それはさあ、こんなことがあるかもしれないから、この対策をしておこうや」と、つまり口癖が否定から入るっていう人間だったんです。
甲木・梁:あー、はい、はい。
遠矢:で、ある時、女性スタッフから「遠矢さんと話をしていると、何も実現する気が起こりません」って。
甲木・梁:笑い
遠矢:そりゃそうだよね。全否定するもんねと思って。周りの仲間たちが「その口癖を治しましょうよ」って言ってくれて、募金箱が用意されました。いや罰金箱ですね。僕が否定から会話に入ったときに100円入れますっていうことをやってくれた。そうするととても気にかけるようになるのに、結局は初日2000円とかになりました。
甲木:ええーっ!?
遠矢:なんか言っちゃうんですよね。口癖だから。
梁:2000円とは、めっちゃ否定してますよね?
遠矢:もう習慣化されていたんです。でも次の日は1000円くらいになり、3日目ぐらいになるとだいぶこなれてきて、一桁ほどになり、ミスが少なくなった。一週間ぐらいでなんとなく口癖として、「そうだね、そうだよね」から入るようになっていったんです。
梁:なんか聞く姿勢が身に付いたというか、そんな感じですかね?
遠矢:そうです。話している内容はもしかしたらまた否定的であったかもしれませんが、せめて入りだけはそれができるようになっていったようです。気づいたら、何だか自分自身の性格も変わっていったというか、素直になれるような、相手の言うことをちゃんと信頼できるというか、前向きになっていく感じがしたんですね。あの僕にとってはそれがかなり大きなターニングポイントになっていて、そこからまた出会う人たちも変わっていた気がしています。
甲木:それが何歳くらいのときだったんですか?
遠矢:33~34歳くらいだと思います。
甲木:学校を卒業をして10年くらいですね。
遠矢:そうです。だからやっと、ですよ。
いい人たちに僕は出会っている
甲木:じゃあ、社長が言った「人の話、聞いてないね」はそういう意味ですか?
遠矢:これはもう少し先になってくるんですけど。つまり、僕が否定から入りつつ、なんとなく否定から入る自分の考えに固執していたっていうことですよね。昔言われた「君は人の話を聞いてないね」っていうのが、そこで少しずつリンクしてくるのは、「物事に対する認識っていうのは人それぞれ違うんだよ」っていうことを、多分その社長は僕に教えようとしていた。それになんとなく気づいたんですよね。一つの事象、例えば、ここに本がありますって言った時の本に対する認識というのは、本を書いてる人、作っている人、読むだけの人、「本」という単語自体にいろんな意味が含まれている。「しかし君は読み手でしかないくせに、すべてがわかったような口ぶりで話しているでしょ」。みたいな、おそらくそんなことではないかと。
梁:なるほどですね。
遠矢:で、さっき言ったベンチャーにいる時に、僕が口癖を直してもらって、やっと気づいた。気づいたんだが、そこの会長から「遠矢君は自分でやるのがあってそうだね」と言ってクビになり…。
甲木・梁:クビになったんですか??
遠矢:クビになりました。で、その時にその前の社長、「話聞いてないね」って言われてた社長にアポイントとって、やっとわかったということもお伝えしようと。仕事を辞めるって言うのも報告しようかなとか、と思って天神で待ち合わせました。で待ち合わせてお好み焼き屋かなんかに入って。二人で座った瞬間に社長から「うん、どうしたの?また辞めるの?」ってもう見抜かれているんです。
梁:なるほど。
遠矢:まあ、いい人たちに僕は出会っているっていうことなんですよ。
甲木:そうですね。すごい人生の気づきを与えてもらってますよね?
遠矢:だからあまり望まない進路であったとは言え、自分の不得意なことを少しカバーできるようなことが起こり、就職したからこそ学んだことがあって、その後いろんな社長さんたち、あと仲間から自分を改造していってもらったみたいな感じです。なんかこう携帯がこう少しずつ変わっていくみたいな。第四形態ぐらいまで来たような気がするっていうことですよ。
甲木:でもね、普通もう大人になって、就職して10年も経ったら人ってそうそう変わらないんじゃないかと。まあ、一般的な企業でもね、もうこいつに言っても無理だよーなんて。言われるような年代ですよ。でも言ってくださる方がいて、しかも変えた遠矢さんはすごいですね。
無駄があったようで、なかった!
遠矢:なんか素直になり始めてたんだと思うんですよ。尊敬できる社長さんたちですもんね。信念があるというか。教えてあげようという姿勢があって、その教えるっていうのはまた難しい話なんだけど、僕に気づいてもらおうとしてくれた。これがよかったですね。今僕がスタッフをいっぱい抱えるという立場になった時に、これはこうするべきだよって言って、表面上はそうしてくれるってことはあるけれども、本当はそこを意図していないですもんね。なぜそうするのかっていうところを自分で考えて、「こんな意味があるからやっている」っていうところに気づいてもらわないといけないから、気づいてもらい方をどうしようかなと思います。さっきインキュベーションマネージャーについて言いましたけど、まあ言ってみればそこなんですよね。質問をしつつ「なんでだろう?」って考えさせ、ひとまずその人が考えうる答えみたいなところまでたどり着いてもらう。
甲木:遠矢さんが若い頃出会った社長さんたちがやっていたことを今遠矢さんがやってるという感じですか?
遠矢:そう!そうなんです。
甲木:全然無駄がないですね。人生に。
遠矢:無駄がないんですよ。これがまた(笑)
梁:ほんとだ。たいぶ遠回りしたかと思ったけど無駄がない!
甲木:近道だったのではないですか?そういうこと?
遠矢:そういうことです。だから自分自身が気づかない限り、なんとなく近い成果みたいなものに届いているように見えるけど、それは何だろう?うーん、ハリボテですよみたいなことを、その社長は言いたかったんだと思います。
甲木:心の底から分からない限りは、ですね?
遠矢:はい。だから、企業にいると売上を上げるっていうことが目標のように見えてくるんだけど、それは結果としてその数値に達しているだけであって、自分たちが提供している物であったり、サービスであったり、何かがその相手先にとってどういう状態をもたらしているのかって、そこに思いが馳せられるようになると、実は勝手に数字なんてついてくるんだよみたいな話しですよね。
梁:いい話ですね!
甲木:いいお話なんですけれども、残念ながらお時間が来てしまいましたので、また続きは来週、お聞きしたいと思います。
梁:本当に短い間で遠矢さんの人生を振り返って大事な気づきを教えていただいて、ありがたい話でしたね。
甲木:新年1回目に相応しいお話しでしたね。
梁:人の話を聞くってなんか簡単に言いますけど、すごい深いことですよね。うーん、今年はちょっと聞く力を見つけていきたいと思いますので、甲木さん、よろしくお願いします。遠矢さんもよろしくお願いします!
遠矢:こちらこそです。
甲木:遠矢さん、ありがとうございました。
遠矢:ありがとうございました。
〇ゲスト:遠矢弘毅さん(インキュベーションマネージャー)
〇出演:甲木正子(西日本新聞社北九州本社)、梁京燮(同)
(西日本新聞北九州本社)