研究分野はジェンダーですが元々は理系でした/北九州市立大学 地域戦略研究所 特任研究員・下田泰奈さん
西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。
博士後期課程で研究したのはジェンダー
甲木:おはようございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。
井上:同じく、西日本新聞社 井上圭司です。
甲木:井上さん、レゴブロックって知ってますか?
井上:はい。私も小さい頃好きでしたし、今、私の子どもが小学5年生なんですけど、ちょうど小学校上がる前ぐらいにすごくハマっていまして、乗り物を作ったり、すごく楽しんでました。
甲木:うちの子も、小さいときは恐竜作ったり、働く人の姿とか作ってました。今日は、そのレゴに関するお話もして下さる素敵なゲストをお招きしております。それでは本日のゲストをご紹介したいと思います。北九州市立大学 地域戦略研究所で特任研究員をしている下田泰奈さんです。よろしくお願いします。
下田:よろしくお願いします。
井上:よろしくお願いします。
甲木:私、ご紹介で、地域戦略研究所で特任研究員と言ったんですけど、それはいったい何をする人なんでしょうか?
下田:私自身もまだ4月に着任したばかりなので本格的な仕事は今からなんですけれども、他大学とか市内の企業と連携して、脱炭素に関する環境省のプロジェクトに関わる予定となっています。
甲木:実は今、博士課程の後期にも属してらっしゃるんですよね。
下田:そうですね。今、2年生です。
甲木:それで今、研究してることは脱炭素じゃないんですよね。
下田:私自身は、ジェンダーに関する、特に“アンコンシャスバイアス”の研究を、博士後期課程でやっているところです。
甲木:はい。ラジオのリスナーの中には、ジェンダーとか、アンコンシャスバイアスとか聞き慣れない単語だという方もいらっしゃると思うので、まずジェンダーと言うところからお話してもらっていいですか?
下田:はい。ジェンダーとは、生物学的な男性と女性とは違う意味合いの言葉として使われていまして、社会的もしくは文化的な性別の違いという位置付けになっています。
甲木:いわゆる男は仕事、女は家庭みたいな…。
下田:そうですね、昔からだとそういう社会的な意味付けということで、男性はこの役割、女性はこの役割、というようなことが言われています。
甲木:それがジェンダーですね。
下田:そうですね。もう一つのアンコンシャスバイアスというのは、日本語で言うと「無意識な偏見」というふうに訳されたりするんですけれども、男性、女性、それ以外の性に限らず、例えば肌の色ですとか、年齢とか血液型とか職業・学歴、そういった社会的な属性に基づいて、ある特徴から無意識に判断してしまう偏ったものの見方というふうに言われています。誰しも持っているものではあると思うんですけれども、それによって先ほど言われていました、例えば男性だったら外で働くべきとか、女性なら結婚したら辞めて家にこもるべきみたいな考え方とかも、ジェンダーの問題にちょっと関わっていると言われていまして、そのあたりの研究をさせて頂いているという感じですね。
レゴブロックを使ったワークショップで、お互いの考え方を伝え合う
甲木:冒頭にお話ししたレゴブロックに話を振りたいんですけれども、実はそのレゴブロックを使ったワークショップ、これまたジェンダーに絡むワークショップをされているそうですね。
下田:そうですね。レゴブロックを使って、どうすればそれぞれの考え方が、お互い伝えられるかというレゴ®シリアスプレイ®というワークショップをやっていまして、キャリア形成やSDGsといったテーマの他、ジェンダーをテーマに行うこともあります。最初は「タワーを作ってみてください」ですとか、「あなたの過ごしてみたい椅子を作ってみてください」とか簡単なところから、レゴのブロックで作っていただいて、そのブロックの作品を元に、お互い話していただきます。例えば何にこだわってそのタワーを作ったかとか、私の推しのポイントは、このタワーの高さですって言われる方もいれば、タワーの色にこだわりましたっていう方もいらっしゃったりして、そのブロックを通して、お互いのストーリーを話して聴くというのが、基本的な流れのワークショップになっています。
甲木:話を聴く中で、だんだん人となりが分かったりするんですか?
下田:そうですね。自分自身が実はこういうことを思っていたということに気付いた、という言葉をいただくことが本当に多いです。例えばタワーを作ってもらったときに、二つとして同じタワーはできないわけですね。パーツの組み合わせが無限にある中、お互い話すことで「あなたにとってのタワーはこれなんですね。私はこう思いました」というふうに決して否定が生まれないワークショップにもなっていまして、その点ではすごく生産的な「対話」ができるということで、学生さん向けですとか、企業向けでも研修をさせていただいております。
元々は理系で、昆虫の脱皮や変態を研究
甲木:ここまで、お聞きすると下田さんは、ジェンダーの研究をしてきた方なんだなあというふうに思われますが、元々は理系ですよね。
下田:そうですね。生物学、昆虫の勉強をしていました。
甲木:ジェンダーとは全然違うじゃないですか。
下田:そうですね。(笑)
甲木:東京大学 大学院でも昆虫を研究していたんですよね。
下田:はい。脱皮とか変態に関する研究で、脱皮とか変態を阻害することで、昆虫の生育を抑制することは、農薬の元になったりとかもする研究になっていまして、蚕を代表的に使ってたんですけれども、ホルモン自体がいろんな昆虫の生態に関わっているホルモンだったので、それを阻害することで、農薬の元となるものを見つけるというような研究をしていたのが、九大の時ですね。
甲木:農薬ってそういう観点から開発されたんですか。
下田:はい、それは九大の時にやってたんですけど、もう一つありまして、東大の時は純粋に昆虫がどういう変化を得て大人になっていくかっていうところを、蚕やアゲハを使って遺伝子解析レベルでやっていたと言う感じでして、すごく奥深い研究だったと思います。
甲木:それで、就職先も農薬メーカーなんですね。
下田:そうですね。ドイツの化学メーカーだったので、塗料ですとか、ビタミンの元ですとか、セメントの元とかいろんな素材を作っている会社だったんですけれども、その中の農薬開発の部署にご縁あって就職したのが最初ですね。
甲木:そうなんですね。ところで農薬作ってた下田さんが、なぜジェンダーに目覚めたんでしょうか?
下田:そうですね。ジェンダーに行き着く前に、できたものをどう社会に繫いでいくかとか、どう社会に出していくかっていうところに非常に興味を持ちまして、広報マーケティング職に異動させていただいたというのが、大きな転機だったと思います。
甲木:それも会社にとっては、異色の異動じゃないですか?
下田:そうだったかもしれないですね。
甲木:研究から広報への大きな変化でしたが、まだジェンダーには至っていないですね。時間も迫ってきましたので、この続きは次回お聞きしましょうか。井上さん、いかがでしたか?
井上:下田さんに伺っている内容の一つ一つが深くて、やっぱり研究者でいらっしゃるから、例えばジェンダーって一言で言ってもそれが深いですし、昆虫の脱皮とか遺伝子とか言っても一つ一つ深いですし、本当にこの後が楽しみです。
甲木:ここまで伺うだけでも、3人分ぐらいの人生を生きてらっしゃるような気がするんですけれども、続きはまた来週お伺いしようと思います。本日は北九州市立大学 地域戦略研究所 特任研究員の、下田泰奈さんにお話を伺いました。どうもありがとうございました。
井上:ありがとうございました。
下田:ありがとうございました。
〇ゲスト:下田泰奈さん(北九州市立大学 地域戦略研究所 特任研究員 )
〇出演:甲木正子(西日本新聞社北九州本社)、井上圭司(同)
(西日本新聞北九州本社)