珈琲のある街/自家焙煎珈琲工房ロッシュ「幻の珈琲の味を求めて」

今や日本を席巻するコーヒーの一大ムーブメント。自宅で過ごす時間が長い今だからこそ、スペシャルティコーヒーを豆から煎れるスロ-ライフを楽しんでみませんか。スペシャルティコーヒーとは、国際審査員の評価で80点以上の点数がつけられた特別なコーヒー豆のこと。そんな豆を北九州で自家焙煎して販売、通信販売もされるコーヒー豆店のストーリーをご紹介します。

#01 リベルタコーヒー「人それぞれコーヒーとの付き合い方が違う」
#02 焙煎屋 森山珈琲「それほどスターバックスが圧倒的だった」
#03 珈琲ごゝろ 夜宮珈琲倶楽部「女性焙煎士として生きる」
#04 自家焙煎珈琲工房ロッシュ「幻の珈琲の味を求めて」
#05 ハニー珈琲小倉店「スペシャルティを根付かせたパイオニア」

幾多の困難を乗りこえての今日/自家焙煎珈琲工房ロッシュ(小倉北区)

街角にある楽しげなお店(写真提供・ロッシュ)

小倉北区船場町の井筒屋新館裏の好立地にある、まるで絵本から飛び出してきたような個性的な店構えが目を引く自家焙煎珈琲工房ロッシュ。焙煎士の鹿島壽明(かしまとしあき)さんが、昭和初期の文豪が愛した港町のコーヒーをイメージして作る深煎りコーヒーが魅力のお店です。2年前に患った脳梗塞で話すことができない壽明さんに代わって、並んでカウンターに立つ奥様の智香さんが話してくれました。

―お店の歴史を教えてください。
2011年に若松で焙煎豆の宅配を始めて、16年に今の場所にカフェを併設した店を構えました。カフェではスペシャルティコーヒーのほかにタルトタタン(リンゴケーキ)などの手作りのデザートも提供しています。実は30年ほど前に主人が「かうひい屋」という3坪ほどの純喫茶を今の店の近くで営んでいたんですが、一度店をたたみ、4年前に5坪で再開したのが今のロッシュです。

―では次にお店の特徴を教えてください。
若いころからコーヒー好きだった主人が、まだ昭和の時代にコーヒー雑誌を読み漁っては喫茶店の飲み歩きをしていたらしいんです。仕事で東京に住んでいる間に有名店に魅かれて焙煎の道に入りました。また昔の北九州市門司港は海外へ渡航する船の出入りが多かった港町で、作家の北原白秋が海外へ旅に出る前に必ず立ち寄ったという純喫茶が門司の風師にあったらしいんです。今はもう名前も分からないお店なんですが、そこで出されていたコーヒーをイメージしてうちは焙煎しています。

トラディッショナルな深煎り焙煎が得意

人気のブレンド3種(写真提供・ロッシュ)

―ロッシュさんのスペシャルティコーヒーのこだわりは何ですか。
うちはスペシャルティコーヒーを深煎り焙煎やエスプレッソで提供するのが得意な店です。スペシャルティコーヒーを使ったエスプレッソは濃厚な甘みが魅力ですし、深煎りでもスペシャルティコーヒーのフレッシュさは変わりません。実は深煎りやエスプレッソの方が、普通にドリップしたコーヒーよりカフェインが少ないという良さもあるんです。

―どちらも熱烈なファンがいるという印象です。
やっぱり深煎りってトラディッショナルな焙煎スタイルなので、うちの店がどんな時でも、主人が焙煎した豆でなければダメだと言って買いに来てくださっていたお客さんが今でも店に来てくれますね。

リーマンショックで見たどん底

―どんな時でもとおっしゃいましたが、一度お店をたたまれた理由をお聞きしてもいいですか?
リーマンショックの影響で景気が悪くなり、北九州でも魚町銀天街を歩く人が激減しました。うちの店も多い時で1日に20人から30人来てくださっていたお客さんが一気に減り、1日に1人なんて日もありましたし、売り上げが1万円をきる日が1年ぐらい続きました。店の家賃や光熱費、人件費を考えたらこのまま店を続けていても仕方ないと、いったん店をたたむ決心をしました。

―大変な時代だったと記憶しています。その時にもコーヒー焙煎の道から離れることは考えなかったんですか?
店の経営再建のために金策に走り回りましたが、金融機関が一番の深手を負っていたのでどこもダメでした。悔しかったですし、辛かったですが、何とかしなくてはと必死でした。それから主人が直方のコーヒー豆のお店を手伝いながら、従業員にコーヒードリップのやり方を教えたりして当座の生活をしのぎました。それで何とかコーヒーの移動販売の店で働くことができ、ちょうど移動販売がハシリの時期だったので井筒屋さんや、ナフコさんの前で商売をさせていただけて、少しずつ店を再建する資金を貯めていけました。

あきらめなければ道は開ける

心のこもったネルドリップ(写真提供・ロッシュ)

―お店が再建できて本当に良かったです。それでは最後にお聞きします。今、コロナウィルス感染予防のための自粛期間の中で耐えていらっしゃる飲食店の皆さんに、リーマンショックの苦境を乗り越えたロッシュさんだからこそ伝えられることはありますか?

*自家焙煎珈琲工房ロッシュでは、消毒用のアルコール除菌剤を店頭に常備し、店舗のドアを開放して通常営業をしています。

それはもうあきらめないってことですよね。あきらめるのは簡単なんですよ。でもあの時、あきらめなかったから今の私たちがあるんだと思います。本当に大切なことや、好きなことなら絶対にあきらめなければいつかきっと道は開けると思います。

―その言葉を北九州で頑張っている皆さんに届けられるように私たちも頑張ります。ありがとうございました。

幻の珈琲の味を求め続けて

脳梗塞で倒れた店主の壽明さんは、しばらく何も思い出せない状態の中でもコーヒーの煎れ方や焙煎だけは覚えていたそうです。智香さんの、どんな時でも明るい話しぶりの裏には、私たちの想像を絶するご苦労があったと思います。かつて文士が飲んでいたという幻のコーヒーの味を求め続ける小倉北区のお店には、時代に打ちのめされても決してあきらめなかったご夫婦が作り出した、ここでしか飲めない自家焙煎コーヒーの味があります。

(編・北九州ノコト編集部)
※5月4日に電話にて取材を行いました。

■自家焙煎珈琲工房ロッシュの焙煎度=やや浅煎り~極深煎り
■人気の豆=まったりブレンド(中煎り)、お勧めはひきしめブレンド(深煎り)

#01 リベルタコーヒー「人それぞれコーヒーとの付き合い方が違う」
#02 焙煎屋 森山珈琲「それほどスターバックスが圧倒的だった」
#03 珈琲ごゝろ 夜宮珈琲倶楽部「女性焙煎士として生きる」
#04 自家焙煎珈琲工房ロッシュ「幻の珈琲の味を求めて」
#05 ハニー珈琲小倉店「スペシャルティを根付かせたパイオニア」

関連記事一覧