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【ファンファン北九州#13】北九州市立大学准教授 アン・クレシーニさん <前編>

ゲストのアン・クレシーニさん(写真中央)

西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。

ペットボトルは英語じゃないって知っとうと!?

甲木:おはようございます!西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。

横山:西日本新聞社の横山智徳です。

甲木:横山さん、今回のゲストはまた楽しみですね!

横山:目の前にペットボトルがありますけど…今回のゲストは、ペットボトルのお話をしていただけるんでしたっけ?(笑)

甲木:では、後でペットボトルについて聞いてみたいと思います。(笑)それではお招きしましょう!北九州市立大学准教授 日本語が好きすぎる変なアメリカ人 アン・クレシーニさんです。よろしくお願いします!

アン:よろしくお願いします!

甲木:アンちゃんと気軽に呼ばせていただいていますが、実は、アンちゃんは西日本新聞のコラム「アンちゃんの日本GO!」で読者にお馴染みなんですよね。それで私もアンちゃんと呼ばせていただいております。

アン:どうぞどうぞ!

横山:今日は僕もアンちゃんでいいですか?

アン:どうぞ!

甲木:さっき、ペットボトルの話が出たんですが。

アン:そうですね。大学で和製英語を研究していて、「ペットボトルは英語じゃないって知っとうと!?」(ぴあ)っていう本を出しました。

甲木:英語じゃないんです!

アン:ちなみに、英語で何て言うか分かりますか?

横山:今日ですね、読んできたので分かります!

甲木:おぉ!じゃあ正解をお願いします。

横山:プラスチックボトル。

アン:もうちょっと発音頑張って!(笑)

横山:Plastic bottle!

アン:おぉ!いい感じですね!

甲木・横山:(笑い)

アン:「Plastic bottle」ですね。いい感じです!

なんで北九州市立大学の准教授になったと?

甲木:今日はアンちゃんの授業みたいになりますけど。そもそも、こうやって日本語で本を出すほど日本語が堪能なアンちゃんなんですが、何で北九州市立大学の准教授をされているんですか?

アン:そうね。私、大学院はアメリカのノーフォーク市にあるオールド・ドミニオン大学に通って。ノーフォーク市と北九州市は姉妹都市で、大学同士も姉妹校で交流があって、この仕事の空きがあることを友達が教えてくれて応募したら採用されました。18年目になりますが信じられない。こんなに長く日本に住むとは全然思わなかった。

甲木:18年ってすごいですね!

アン:英語がちょっとおかしくなってきたんですよ。(笑)「あれ、英語で何やったっけ?」ってことがよくあります。

甲木:日本語が頭に入りすぎて。

アン:そう。日本語の方が先に出てきて、誰かに「あれ英語で何やったっけ?」って聞くことがよくありますね。

甲木:もう何人ですか!(笑)

アン:本当ですね。

日本のすべてが好き!ここが私の居場所

甲木:でも、そもそも北九州の大学の先生になりたいってことは、「日本に住みたい!日本で働きたい!」と思ったわけでしょう?何でそこまで好きになったの?

アン:最初は、他の国を経験したいと思ったんだけど。実際、日本に住んでみたら楽しくて、日本人も素敵でいろんな経験もできるから。最初は5年の予定が、10年、18年経って。すごく日本が住みやすいところなので。よく「何で日本が好きなの?」って聞かれるんだけど、「これ!」っていうのがなかなか言えなくて。日本のすべてが好きで、ここが私の居場所だなって感じがしますね。

甲木:へぇー不思議!そこまで外国の人に日本を気に入ってもらえるっていうのが。

アン:私、アメリカに戻る度に、お腹壊したりとか英語が通じなかったりとか。(笑)逆に「ここは私のホームじゃないな」って感じがすごく強いですね。

横山:お腹壊すってすごいですね。

甲木:日本の食べ物好きよね。

アン:そうそう。アメリカの食べ物が合わなくなってきた。日本の煮物とかすごく大好きで。

横山:ハンバーガーとかステーキとかじゃなくて?

アン:ハンバーガーとかあまりいらないね。白米ときんぴらごぼうがあったら幸せ!もう天国!って感じですね。(笑)

甲木:この見かけをラジオで皆さんにお見せできないのが残念なんですけど、バリヤンキーな感じなんですよ。(笑)

アン:そうなんですよ。見た目は相当ヤンキーだけど。実は、伝統的日本文化が大好きで、着付けも三味線も習っているんですよ。

甲木:ライブをしたとか?

アン:はい!初めてのライブしました!

甲木:デビューよ!

横山:すごい!!

アン:こういう昔の日本が好きすぎてたまらん!!だから見た目はこんな感じだけど、ロックに全然興味がないんですよ。

甲木:そうなのよ!見た目はロッカーなんですけど。

アン:一番好きな曲は「炭坑節」なんですよ!大好き!!

甲木:えっ!?炭坑節の何が好き?歌詞?メロディー?

アン:歌詞もメロディーも全部好き!たまに歌い出すときがあるんですよ。突然!(笑)

甲木:へぇー。「月が出た出た~」って?

アン:そうそう!(笑)

甲木:そうですか!それディレクターの樋口さん泣いて喜びます!たぶん!
日本に対する愛、どこが好きって言えないって仰ってましたけど、「日本語愛」もすごいんですよね。

アン:そうね。日本に来た時に、全く日本語が話せなかったので生活が楽しくなかった。ある日、引っ越しの挨拶に行くのに「つまらないものですが~」って一生懸命練習して洗剤を買って。トントンってしたら「誰ですかー?」って聞かれて。私どういうふうに答えたらいいか分からんかったけ「外人です」って答えたんです。(笑)

甲木・横山:(笑い)

アン:その日が人生のターニングポイントだったよね。「やばい!日本語勉強せないかん!」って思って、あの日からずーっと一生懸命日本語勉強していますね。今は、朝から晩まで日本語のことしか考えていなくて。ものすごく難しいですけど、魅力が溢れてて終わりがない。毎日新しい発見があって、昨日知らなかった単語が今日は知ってるっていうのがすごく良い!その喜びはすごく良いなっていつも思うよね!

元NHKのアナウンサー宮本隆治さんとの共著

甲木:アンちゃんが最近出した「教えて!宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!」(サンマーク出版)っていう本。NHK元アナウンサー宮本さんと一緒に書いた本なんですよね。

アン:北九州の人ですね。

甲木:門司出身の方ですよね。この本読んだら、日本人の私も勉強になる!日本人がちゃんと考えていない日本語について書かれているんですよ。

アン:たぶん、皆さん自分の母国語について深く考えないと思うんやけど、私は外国人だからこそいろいろ気づいているんじゃないかなと思う。「何でこれがあるの?意味が分からん!」って疑問に思って、宮本さんにメールを送ったんですね。「何で日本語はこうなっているんですか?」「元旦と元日の違いは何ですか?」「印鑑とはんこの違いは?」とか。すると、早く詳しく解説してくれて。その1年間のメールのやり取りが、この本の土台となりました。

甲木:やっぱり日本語のプロ!宮本さん。すごいですよね!

元日と元旦の違い知っとうと?

横山:ちょっとお聞きしてもいいですか?僕がアンちゃんに聞くのもですが、元旦と元日の違いって?

甲木:わからんやろ~。(笑)

アン:元日は1月1日のことで、元旦は1月1日の朝、午前中のことです。

横山:あー!!

甲木:漢字に秘密があるんですよね。元旦の「旦」の字っておひさまが昇る様子なんだって。

横山:僕も新聞社に勤めているんですが…。(苦笑)

日本語の勉強が終わんない。よっしゃ!頭良くなった!

アン:でも、そういうのが多いんですよ。「何でこういう言葉があるの?どう違うの?」って思ったことがあると思うんですけど、ほとんどの人が「まぁいいか。知らんでよかろう」って。でもそこがポイントで、「私知りたいから調べる!」って調べていくと、その度頭が良くなるんですよね。例えば、「コロナのシュウソク」の「シュウソク」っていう言葉。「収束」と「終息」の2つありますよね。ほとんどの人は「どっちだっけ?まぁいいか!」って思うけど、それぞれちゃんと違いがあるんですね。「収束」は人の力で少なくする、「終息」は自然に完全になくなる。

横山:へぇー!

アン:だから、コロナは早く「終息」してほしいけど、人間の場合は「収束」させるっていう違いがありますよね。そういう微妙な違いがあるから、日本語はすごく深くて勉強に終わりはないなって思う。そういうことを勉強すると、私も本当にワクワクして「よし!頭良くなった!」って感じがします。

甲木:すごい!私たちはやり過ごしているんですよね、たぶん。「どっちの漢字使うんだっけ?」って思ってもアンちゃんは調べる。それがやっぱりすごい!

アン:それは言葉だけじゃなくて、すべてに好奇心を持つことが大事だなっていつも思う。「なぜ?」をずっと聞くことが、人間をどんどん成長させていくんじゃないかなと思います。

甲木:子どもは「どうして?」ってずっと聞きますもんね。でも、大人になったら聞かなくなるもんね。

アン:聞いたところによると、大人は一日に38回くらいしか質問しないんだけど、子どもは200回くらい質問するらしい。大人は「もういいよ、聞かんでよ」って言ってしまうんだけど、本当はそれは良いことなんですよ。「なぜ?どうして?」に対してちゃんと大人は答えないといけない。けど、私たちは疲れてたり面倒くさいから「まぁ、いいや!」って思ったり、「決まりだから」「○○○だから」って言うよね。

甲木:「あとで」とか。

アン:けど、結局その「あとで」が来ない。

甲木:でも、宮本さんはそれ全部答えてくれたんですよね。

アン:そうです。

甲木:本当にこの本は勉強になりました!私も恥ずかしながら新聞記者を20年以上やっていながら、知らなかったことがいっぱい書いてありました。

アン:一番ビックリしたこととかありましたか?

甲木:ありました。深く突き詰めて考えたことがなかったのが「謙遜」。相手を重んじて生まれる「優しすぎる日本語」ってあったじゃないですか。

アン:外国人にとってやっぱり敬語がすごく難しいんですよ。日本人もなかなか分からないですよね。

甲木:何がビックリしたかというと、「お茶が入りました」って言葉。「お茶が入りました」っておかしいんですよ。「お茶がどこに入るの?」って。だけど、これは「私がお茶を入れたよ」って自己主張しない日本人の奥ゆかしさなんだって。

アン:考えたことないでしょ?

横山:考えたことなかったですね。

アン:自分が入れたのに「何でお茶が入ったの?」ってずっと不思議に思って。あと「お湯が沸きました」とか。

横山:「私が沸かしました」とは言わないですよね。

アン:それが外国人から見ると「何で?」って思うんですよね。

言葉も文化もその下の世界観も繋がっている

甲木:言葉の話なんだけど、日本人の性格や習慣とか。

アン:たぶん、どんな言語でも言葉と文化はずっと繋がっていて、その下の世界観から生まれてくるものだから。例えば、日本はすごく「曖昧」を大事にする文化なので、日本語は非常に曖昧。そして、「上下関係」を大事にする文化だから、上下関係を表す言葉が多いんですよね。「先輩・後輩」とかそういう単語は英語にはないんですよ。

甲木:そうなんですか?「senior」とか「junior」は?

アン:って皆さん訳したがるんですけど言わないんですよ。なぜかというと、先輩・後輩の関係がないからなんですよね。

甲木・横山:へぇー!

アン:「teammate」「friend」とかそういう言い方しかないんですが、どうしても日本人は抵抗がありますよね。「先輩は友達じゃない、先輩は先輩なんだ」みたいな。「よろしくお願いします」「お疲れさま」とかそういう決まり文句も英語でなかなか訳せないんです。「よろしくお願いします」無しで、日本人は人間関係が成り立たないんですよね。

横山:「よろしくお願いします」はないんですね。

甲木:「Nice to meet you.」は?

アン:場合によって訳せるときもあるんだけど。例えば、スピーチの後の「よろしくお願いします」のようなのはないんです。

甲木:なるほど。韓国語はちゃんとありますよ。

アン:たぶん、アジアは共通点があるんだと思う。アメリカでは、そういう上下関係がほとんどないから。やっぱり概念がなかったら、当然その概念を表す言葉もないんですよね。例えば、「単身赴任」も制度がないから、それを表す言葉もない。もし英語で言いたかったら「Tanshin Funin is when a father or mother goes to another country or another place in Japan, and no one knows if he or she is ever gonna come back.」みたいな。

甲木:長い説明がいる。(笑)

アン:「はぁー!」って思うでしょ?(笑)だから、私はいつも言葉だけ、文化だけじゃなくて合わせて一緒に勉強しないと、すべてを見ることができないなってすごく思います。

甲木:なるほど。それは学生にもそう教えてるんですか?

アン:そう。皆さん、英語に憧れていますよね。それは良いことなんですが、言葉だけじゃなくて言葉から生まれる文化、そしてその文化の下にある世界観が分からないと、いろんな勘違いが起こることも。ちゃんと世界観・文化・言葉をセットで勉強した方が良いといつも学生に言ってますね。

〇ゲスト:アン・クレシーニさん(北九州市立大学准教授)

〇出演:甲木正子(西日本新聞社北九州本社)、横山智徳(同)

(西日本新聞社北九州本社)

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