「北海道産地応援フェア」開催 コロナ禍で行き先を失った魚を北九州で販売へ
長引く新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、北海道産の水産品も飲食店の休業や時短営業などで行き場を失い、多くの北海道内の生産者や仲卸事業者が厳しい状況に陥っています。
この厳しい状況を乗り越えるために北九州からできることはないかと考え、1人の若者が北九州市内での北海道産水産品の販路拡大を開拓すべく、立ち上がりました。九州魚市株式会社・冷凍塩干部の赤池慎之介さんです。
家族みんなで大きな魚をつつき合って食べる…それが理想の食卓
赤池さんは、小倉北区西港町にある北九州魚市場で、国内外の冷凍食品、冷凍魚、塩干加工品の販売を担当する34歳。今年で勤め始めて10年目の”若手”です。高齢化が進み、若い世代も少ない水産業界において、「干物に関しては誰にも負けたくない」という強い気持ちで、この道何十年というベテランの目利きたちにもまれながら勉強する毎日を送っています。
「魚市場は365日、毎日同じ顔ばかりという特殊な職場環境です。その分、強い信頼関係があり、この人たちの前では『正直に生きたい』と感じるほど。仕事は深夜2時から始まるし、決して楽な仕事ではないけれど、市場が大好きだし、魚も大好き。とにかく水産業界を盛り上げたいんです」と言います。
日本人の「魚離れ」が想像以上に加速する中、特に自分と同世代の若い世代が魚を食べる機会が減っていることが悔しいと赤池さん。「本当の魚、おいしい魚を食べるという環境にないから、魚離れが起きるんだと思うんです。夕飯時に家族みんなで大きな魚をつつき合って食べる…それが自分が考える理想の食卓なんです」と言い、『一般の人にもっと魚食を普及させたい』『魚の良さをもっと知ってもらいたい』と話します。
熊本豪雨で実家が被災 日本各地から支援してくれた人たちに恩返しを
そんな赤池さんは熊本県人吉市出身。2年前の熊本豪雨で実家が被災しました。赤池さん自身は北九州にいたので無事でしたが、仕事で知り合った日本各地の魚市場の関係者らが被災した実家のために支援の手を差し伸べてくれたそう。
「実家が被災した際、地元の人はもちろん、遠方の水産業界関係者まで本当にたくさんの人たちが心配して助けてくれました。実は遠方の人たちは実際には会ったことがない人たちばかりなんですが、仕事で築いてきた信頼関係だけで顔を合わせたこともない自分を助けてくれました。いつかその恩返しをしなければとずっと思ってきました」と赤池さん。
10月上旬から「ハローデイ」で「北海道産地応援フェア」開催へ
そんな中、北海道産の魚の値段が新型コロナの影響で暴落。売れる目途がたたない何百トンという余剰在庫を抱え、結果的に食品ロスが発生しているという現地の苦境を耳にしました。
今こそが恩返しできる時なのではないかと考えた赤池さんは、北海道の仲間たちのピンチを救うべく、北九州市で北海道産水産品を多くの人に買ってもらえないかと販路拡大の方法を探し始めます。
赤池さんの熱意に応えるかのように、北海道ぎょれん(北海道漁業協同組合連合会)や北九州の水産加工会社、地元スーパーなどが次々と協力。今年10月上旬から、北九州市内の「ハローデイ」で「北海道産地応援フェア」を期間限定で実施できることになりました。
フェアでは特設コーナーを設置し、北海道産の「ほっけ開き」「なめたかれい一夜干し」を販売。「過剰に在庫を抱えて困っている北海道の水産業界を応援するためのフェアなので、過度な安売り競争や買いたたきが行われないよう適正単価で販売することが大事」だと赤池さんは話します。
焼くだけじゃない! 煮付けや揚げ物など干物のアレンジ方法も紹介
安売りなどをしない代わりに自分ができることは、買ってくれる人たちのために魚のおいしさを伝えることだと、今回「干物でチャレンジ」というポップを作成し、干物のアレンジ方法も紹介することにしたそう。
「干物は焼くだけじゃないんです。煮物にも揚げ物にもアレンジできる面白くて奥深い食材なんです。しかも干物は内臓を既にとっているので下処理済みで手間もかからず、干すことでうま味も凝縮されています。干物で煮物や揚げ物をした方がおいしいという人も多いんですよ。せっかくのフェアなので、あまり知られていない『干物から+α』という食べ方も発信していきたいです」と言います。
今回販売する北海道産の「ほっけ開き」「なめたかれい一夜干し」の味わいについて尋ねると、「ほっけ開き」は肉質がやわらかく、口当たりがいいので子どもや女性に好評、「なめたかれい一夜干し」はかれい独特のにおいがないので煮ても揚げてもどちらでもおいしいと教えてくれました。
生産者と食卓をつなぐかけ橋になりたい
今回のフェアは小さな一歩かもしれないけれど、フェアを通して「魚を好きになってもらいたい」「水産業界を盛り上げたい」「頑張っている人がいることを知ってもらいたいと願う赤池さん。今回のフェアがきっかけで魚に興味を持ってもらえたら、次は魚市場に来てほしいと言います。
「自分が関わった魚を食べて『おいしかった』と言ってもらえることが一番嬉しいし、何よりもやりがいになっています。だからこそ、生産者と食卓をつなぐかけ橋になりたい。今や魚市場がつぶれる時代。バイヤーさんや仲介業者さん、水産業界に関わる人たちに育ててもらっている自分ができる恩返しは、これかなと」と語ってくれました。
※2022年9月28日現在の情報です
(北九州ノコト編集部)