• HOME
  • 記事
  • 暮らし
  • 和布刈神社は神事だけにあらず ダイナミックな湯立神楽で厄払い【北九州市門司区】

和布刈神社は神事だけにあらず ダイナミックな湯立神楽で厄払い【北九州市門司区】

(アイキャッチ画像:湯立神楽)

北九州市門司区にある「和布刈神社」で毎年旧暦の正月頃に行われている、予祝儀礼「和布刈神事」。古くから伝わる豊作を願う農耕儀礼の一つで、今年は2月9日〜10日にかけて行われる予定です。

北九州ノコトでは2023(令和5)年の和布刈神事について、和布刈神社の神事由来など関係者のインタビューも含めて紹介しました。

今回は、和布刈神事の前に行われる「湯立神楽」を行う豊前(京築)神楽にも焦点をあてて紹介したいと思います。実際に見た人だけが感じるダイナミックな湯立神楽、一度は体験したいところです。

豊前(京築)神楽の真骨頂「湯立神楽」

北九州市近郊の神社では、春や秋の大祭の際に神楽を見物することがあるかと思います。

その場に掛けられている神楽講(かぐらこう:講とは社寺や霊場に参詣したり維持したりすることを目的とした団体、現在では神楽舞を行うグループを指すことが多い)の幕の多くは、「豊前(京築)神楽」か「折尾神楽」と書かれているのをみることでしょう。

(藍の幕に白抜きで書かれた「豊前神楽・黒土神楽講」の幕)

折尾神楽は、石見神楽の流れを組んでいます。代表演目としては、やはり有名な「ヤマタノオロチ」でしょうか。大蛇がとぐろを巻き、火を噴く姿は圧巻です。または、恵比寿さまが竿と大きなビクをかかえて鯛を釣り上げるおめでたい演目も人気だと思います。

国指定の重要無形民俗文化財の「豊前(京築)神楽」

折尾神楽に対して、豊前(京築)神楽は岩戸神楽の系統で、英彦山や求菩提山などの山伏の流れも組んでおり、修験道を色濃く残す演目が多いように思います。

斎庭(ゆにわ)と呼ばれる四方に結界を張った舞台は、四隅に東方の神(木の神)・西の神(金の神)・南方の神(火の神)・北の神(水の神)と、中央に土の神の五行神を祀っています。

(久々能智之神(くくのちのかみ)は風の神・山の神・野の神と共に生まれた木の神、東方の神)

まずは「式神楽」という場を清めて神様に降っていただくための舞を行い、その後「奉納神楽」という物語性の強い演目に入ります。

「湯立神楽」はこの奉納神楽に入りますが、初めに直面(ひためん・面を被らない舞人)の4人が場をつゆ払いし、設けられた祭壇へ祈りを捧げて開始することから、式神楽と奉納神楽の両面を持っていると言っても良いかもしれません。

夜の関門海峡、そして上空には関門橋が大きく掛かっている和布刈神社は、このダイナミックな演目を行うには絶好の場所です。暗い海を行き交う船と汽笛に誰もが情緒たっぷりと浸かり、神楽舞の世界に引き込まれていくことでしょう。

演目の中でも駈仙(みさき)神楽は、とてもポピュラーな神楽舞です。神話の「天孫降臨(てんそんこうりん)」で神々が高天原(たかまがはら)から降りて来た時、最初に出逢ったのが猿田彦(サルタヒコ)大神です。鬼の面をかぶっているのが猿田彦、直面は天鈿目之命(アメノウズメノミコト)です。

猿田彦大神は地の神様であり、みちひらきの神様でもあります。天孫降臨の時も高天原から降りられた神様を道案内するためにやってきたのですが、誤解が生じて争いになります。しかし、誤解も解けて無事に神々一行を高千穂の峰へお連れする、その和解までのストーリーが「駈仙(みさき)神楽」です。

面白いことに、この戦をした猿田彦大神と天鈿目之命はのちに夫婦になり(※諸説あり)、伊勢には猿田彦神社の傍に猿女(さるめ)神社があって、二神は仲良く祀られています。

(火をバックにまだ暴れ足りなさそうな猿田彦)

猿田彦大神の独壇場となる「湯駈仙神楽」はハラハラドキドキ

駈仙神楽はここで終わる(退場する)のですが、この湯立神楽では「湯駈仙神楽」という演目になり、その後さらに猿田彦大神が斎鉾(真ん中の竹ばしご)によじ登ります。

鬼面の猿田彦がするすると竹を上り、曲芸のようなしぐさで舞う姿はハラハラドキドキ。

猿田彦のパフォーマンスはそれだけにとどまらず、火を振り回して邪気を払います。

最後は手放しまで披露してロープを曲芸師のような軽い身のこなしで下りてくるまで気が抜けません。

湯立神楽自体は京築地区だけで行われているものでなく、全国各地で様々な形で行われています。火を起こし、それで沸かした湯で吉凶を占ったり、無病息災を祈念したりします。

(湯の御子、湯神人形を浮かべて3132座の神々を勧請する)

豊前(京築)神楽でもひとしきり神楽を舞った後に火鎮(ひしずめ)神楽として全国の一宮へ祈りを捧げて神様を勧請する中、陰陽五行の融合などを感じる儀式が続きます。

ほとばしる火花 クライマックスは火渡り神事

最後はまだ熱い残り火のある焚火の中を歩く「火渡り」へと続きます。

田川の香春岳近くに「神宮院」という天台宗のお寺があります。筆者が以前ここの火渡りに参加した際、「火渡りを終えたあとは張っていた結界が解かれて以降、たとえ火を渡ったとしても効力はない」と聞きました。

湯立神楽でもこの火渡りを終えて結界を解き、終了となります。神仏習合と、さらに修験道のしきたりが交じった、京築地方らしい祭祀だと思います。

神楽が終了し、日が変わると本格的に神事に移り、神官が階段を下りた先の海で冷たい海水に手足を浸して新年の若芽(わかめ)を刈り取ります。

神楽といい神事といい、「和布刈神社」という、九州の一番北の突端にある激しい海流の流れる海に面した社で行われることで、遠い昔のおとぎ話の世界に紛れ込んだような気分になります。

(普段夜間は閉まっている社務所が今日だけ特別に煌々と明かりを灯している)

神事の終了後は特別な「授与品」をいただくことも。通常、乾燥している「献上わかめ」がこの日だけ「献上生わかめ」となっています。

献上生わかめをたくさん並べていました。
数量限定の献上生わかめ(初穂料500円)写真は昨年のもの。

昨年筆者は、無病息災を期待して「献上生わかめ」をわかめご飯として食べました。

境内では火も焚かれていますが、夜は気温が下がり、海風が強い事が多いのでお出かけの際は温かい服で行きましょう。

和布刈神事などの詳細は和布刈神社のホームページで確認できます。

■所在地/北九州市門司区門司3492
■入場料/無料
■駐車場/あり

※2024年1月30日現在の情報です

(ライター・いるかいる)

関連記事一覧